アジア開発銀行の総裁退任の中尾武彦さんのご挨拶を読ませて頂いた。ここに 日本のアジアでの役割と行動方針が記されているので、取り上げる。
時代とともに役割は変化しているが、これから期待される役割も勉強になった。インドやタイ、バングラデシュなど、長年通わせて頂いているが、中尾さんの視点は参考になる。 さあ 私たちは 日本の役割を民間でどのように考え どのように動こうか?考えてみよう。
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中尾武彦・アジア開発銀行(ADB)総裁 会見 2019.11.28 471 回視聴 2019/12/03 jnpc 数 2.7万人
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アジア開発銀行総裁退任式あいさつ 中尾武彦
Speech | 2020年1月16日
アジア開発銀行総裁退任式あいさつ 中尾武彦 2020年1月16日
1.はじめに
皆様、こんにちは。カルロス・ドミンゲス財務長官ならびにフィリピン国ADB総務、ベンジャミン・ディオクノ中央銀行総裁ならびにフィリピン国ADB総務代理、エルネスト・アベラ・フィリピン国外務次官、そのほかのゲストの皆さん、理事会メンバー、同僚、友人の皆さん。本日はこの会合にお越しいただきありがとうございます。
ビデオカンファレンスで参加してくれている現地事務所のスタッフを含め、これほど多くの同僚や配偶者の方々に出席していただけたことを大変嬉しく思います。
また、ドミンゲス長官やデボラ・ストークス副総裁、スタッフ・カウンシルのアウ・シオン・イー会長、ならびにシュルカニ・イシャク・カシム理事兼理事会会長からの温かいお言葉にも感謝しております。
今日が私のアジア開発銀行(ADB)総裁としての最後の日になります。2013年4月28日に着任しましたので、7年近くを務めたことになります。
その間に、ほとんどの域内、域外の加盟国・地域を訪問し、多くの国については何度も訪問することができました。海外出張は131回、750日に及び、各国の首脳、大臣、政府高官と面会し、学者や学生、ビジネスリーダーや起業家、市民団体、そしてメディアと意見交換を重ねました。また、さまざまなプロジェクトを視察し、受益者の住民の方々とも対話の機会を持ちました。域内加盟国を回るたびに、各国の開発に対する情熱、歴史の重み、それぞれの文化に対するプライドを感じることができました。
ADBにおいて、この7年間、各国政府、理事会、マネージメントチーム、スタッフとともに、我々は多くのことを成し遂げることができたと思います。私自身、多くを学ぶことができる、実りの多い7年間でした。満足と感謝の気持ちでADBを去ることができます。
2.アジアの変化
12月初旬に最後の出張で北京を訪問した際、中国の英語テレビ局のインタビュー番組に出演し、任期中にアジアはどう変わったかという質問を受けました。事前に想定していた質問ではありませんでしたが、日ごろ考えていた3つの点を指摘しました。
第1は、世界金融危機後、世界経済が全体として減速するなかで、アジアの途上国が堅調に成長を続け、世界経済の中での存在感をさらに増大させてきていることです。多くの国で、経済のファンダメンタルは健全で、成長のモーメンタムは維持されています
第2は、新技術の影響がより明らかになってきたことです。デジタル技術、人工頭脳、ビッグデータなどの新技術は、人々の生活を改善させ、いろいろな形の格差を埋める大きなポテンシャルがある一方で、所得格差の拡大、プライバシー、雇用への影響などの問題も抱えています。
第3に、グローバル化の進展、新技術、新興国の存在感の拡大などを反映し、地政学的にも、政治的にも、変化が見られるということです。そうした中で、マルチラテラリズムの役割が問い直されています。また、アジアインフラ投資銀行(AIIB)や新開発銀行(NDB)などの新たな国際的プレーヤーも出てきています。
3.ADBの役割
こうした中で、ADBが各国の開発を支援し、また、地域内、そして域外も含めた協調を推進していくという役割は、これまでにも増して重要になっていると思います。しかし、ADBがそのような役割を果たし、加盟国から評価され続けるためには、常にADB自身が改革を続けていく必要があります。
第1に、各国が自身で開発のための資金を調達し、プロジェクトの遂行能力を高めている中で、ADBはファイナンスの機能に加え、ナレッジの提供をさらに強化していくことが必要です。電力、交通、水、農業、教育、保健・医療、金融サービスなどの各分野には、高度技術を生かす大きな可能性があります。私の在任中に発足させたセクターグループやテーマグループが「One ADB」の意識を高め、知識を蓄積し、活用していく基盤となることを願っています。
環境社会配慮、調達、経済調査、財務、法律、リスク管理、独立評価などに関する専門性は、ADBのナレッジ提供に不可欠です。ADBが昨日発表にこぎつけた『アジア開発史-政策・市場・技術発展の50年を振り返る(Asia’s Journey to Prosperity: Policy, Market, and Technology over 50 Years)』は、50年にわたるアジアの開発を幅広い観点から論じています。ADBがアジア発のナレッジの生産に貢献する重要な例だと思います。
第2に、ファイナンス自体の機能を強化していくことも重要です。通常資本資金にアジア開発基金(ADF)の貸付機能とその資本を統合した2017年の改革は、通常の融資と譲許的融資の両方の拡大を可能にし、ADBのファイナンス機能の強化に大きく寄与しました。ADBの年間融資実績は、2013年の140億ドルから2019年には220億ドルまで増えました。
しかし、今後も、加盟国やADFドナーの増資の負担をできるだけ小さくしながら、アジアの中で存在感を示すことができるような十分な貸付とグラントの規模を目指す必要があります。そのため、加盟国とドナー、借入国がADBの将来についてのオプションを検討し、それぞれがどのような役割を果たすことができるのかを考えていかなければなりません。
ADB自体が、運営経費などを節約していく努力も必要です。これに関連し、昨年秋に、各国の発展段階に応じてより高い金利を支払う枠組みに多くの途上国の賛成も得て合意できたこと、より貧しく、より脆弱な国に対するグラント支援を、気候変動やジェンダーを含む重要な分野で強化していくADF13増資(2021年から24年を対象)の方向性がドナー会合で支持されたことは、大きな進展です。
第3に、国際的な課題にADBがより大きな役割を果たしていく必要があります。気候変動、海洋汚染、持続可能な開発目標(SDGs)、質の高いインフラの整備、医療における国民皆保険制度などの国際的なイニシアティブを実施していくにあたり、ADBのようなマルチ機関の役割は不可欠です。そうした観点から、2015年のCOP21の直前にADBが他に先駆けて掲げた「気候変動の適応、緩和のファイナンスの倍増」という目標を、2019年に1年前倒しで達成できたことを報告いたします。
昨年の気候変動ファイナンスの承認額は62億ドルに上りました。
第4に、民間セクターやマルチ及び二国間の開発パートナー、市民団体とのさらなる協力が必要です。各国の開発の促進にあたり、民間セクター向けの融資や出資を拡大することにより、民間の活力を生かしていくことが求められています。官民パートナーシップ(PPP)などを通じて民間資金を動員することも重要です。さらに、開発パートナーや民間との協調融資やリスク分担も推進する必要があります。
第5に、以上のようなADBの役割を果たすうえで、忘れてはいけないことがあります。それは1966年のADB創設後に渡辺武初代総裁が言っていた「教える前に学べ」という言葉です。各国政府はさまざまな制約に直面しながら開発の努力をしています。マルチ機関の役割が問われる中、各国の事情にまず耳を傾け、それを踏まえながら、ADBのスタンダードを守りつつ、スピード感を持ってADBとしての支援を進めていく必要があります。
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Takehiko Nakao: “Overview of Asian Development”
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4.スタッフへのお願い
ADBの総裁を辞すにあたり、スタッフに私の言葉として覚えておいてほしいことが3つあります。
第1に、明確性と付加価値です。美しいレトリックであいまいにせず、自分たちがやっていることは何を目的にし、どんな手段でそれを達成しようとしているのかを明確にし、ADBならではの付加価値のある仕事に心がけてほしいと思います。関連して、確立された外部の権威に頼るのではなく、オリジナリティがあり、かつ世界にモデルを示すようなナレッジの創造を目指してください。
第2に、変革することへのガッツとチャレンジする姿勢です。アジアも世界も大きく変貌する中で、途上国のニーズも変化し、多様化しています。そうした中で、ADBが自らを変革できなければ、その意義は下がっていってしまいます。特に組織のマネージャーたちには、変革することへのガッツを持ち、同僚とよいコミュニケーションをとり、新しいアイディアにオープンであることを求めたいと思います。また、若いスタッフにも、常にチャレンジし、自分のアイデアを表明する姿勢を持ち続けてほしいと思います。
第3に、プライドと謙虚さです。ADBはアジアの中にあって、オペレーションとナレッジの機能を持ち、各国の友好や協力を推進できるユニークな機関です。そこに働き、地域の開発に貢献できることに高いプライドを持ち続けてほしいと願っています。同時に、ADBは、加盟国の納税者の拠出により成り立ち、貧しい人々のために働いているという基本を常に心にとどめてほしいと思います。
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Interview with Takehiko Nakao, president, Asian Development Bank – View from ADB 2016
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5.未来に向けて
アジアは大きな発展のポテンシャルを持っていますが、同時に、根強い貧困、ジェンダーのギャップ、気候変動、都市化や高齢化などまだまだ多くの課題を抱えています。ADBはこのような課題に取り組み続けるという大きなミッションを持っています。自己満足に陥る余地はありません。
私の仕事を、国際金融や開発で長い経験を積んだ浅川正嗣さんが引き継いでくれることは幸いです。私自身、浅川さんとは何度も一緒に仕事をしたことがあり、信頼を寄せている方です。どうか、新総裁のもと、一丸となってADBのミッションを追い続けていくことを期待しています。
ホスト国のフィリピンには心から感謝をしたいと思います。マニラが本部であることにより、勤勉で、親切で、有能なスタッフに恵まれてきました。ドミンゲス長官にはい くつもの貴重なアドバイスをいただきました。おかげさまで、フィリピン政府とADBの協働は近年拡大、強化されてきました。
マニラでともに生活し、忙しい私を励ましてきてくれた妻麻子と2人の息子たちにも感謝します。その麻子を助けて、ADBのコミュニティを盛り上げてくれたADB職員配偶者アソシエーション(ADB Spouse Association)のメンバーにも感謝の気持ちでいっぱいです。
最後になりますが、改めて、加盟各国の政府、ともに働いてきた理事会のメンバー、マネージメントチーム、歴代の総裁室のアドバイザーたち、私を世話し続けてくれたシーラやリン、本部とフィールドオフィスのスタッフとその家族たち、いつもおいしいお茶を出してくれたオドン、どこに行くときもついてきてくれた警官や警護スタッフ、ドライバー、そのほか施設や食事などにかかわるスタッフ、私を助けてくれたすべての皆さんに心からお礼を申し上げます。
ADBのますますの発展と皆様の活躍をお祈りしております。この7年間、本当にありがとうございました。
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第六十九回ビジネス烈伝 / アジア開発銀行(ADB) 総裁首席補佐官 池田洋一郎さん 経済成長の舵取りを担い、国の長期的な発展を目指す
アジア開発銀行(ADB)
総裁首席補佐官
池田洋一郎さん
1977年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、2001年に財務省に入省。予算管理の業務等に従事し、2003年に広島国税局に出向。ハーバード大学ケネディースクールへの留学を経て2011年に世界銀行に移籍。バングラデシュ事務所や本部駐在を経て、2017年にアジア開発銀行に移籍。同8月から現職。
〈心に残っている本〉
村上春樹の「走ることについて語る時に、僕が語ること」というエッセイです。「走ることで毒素が抜けていく」という一節に非常に共感しました。心の平静を保ちたい時に重宝するのは「今ここに意識を集中させる練習」です。こちらはマインドフルネスの本で、日々の所作に集中する重要性を説いています。
2017年にADBの総裁首席補佐官に就任した池田さん。新卒で財務省に入省後、活動の幅をバングラデシュやフィリピンなど海外にも広げてきた。平和な社会の実現に向け、働く組織や国籍を超えて団結する力の育成に邁進する。「経済の安定は国家の安定につながる」という考えをもとに、ミクロとマクロの両方の視点から国の成長の軌道を描く。
編集部 ご経歴を教えてください
池田さん
1977年にタイのバンコクで生まれ、東京の中高一貫校に入学しました。幼い頃から歴史や経済に関心があり、大学は早稲田大学の政治経済学部に進学。父親が海外の大使館に勤務していたり、祖父が元海軍の軍人だったりと、国に関わる仕事に魅力を感じ、2001年に財務省に入省しました。予算管理を行う主計局で2年間勤務した後、広島の国税局に出向しました。
編集部 広島でのご経験をお聞かせください
池田さん
税金の仕組みを理解し良い制度をつくるためには、実際に税金を徴収する現場での経験が欠かせないと感じました。仕事以外では英語学習に没頭。当時26歳だった私は英語で自己紹介ができないほどの語学力でしたが、英会話スクールでの会話が楽しく、みるみる英語にはまりました。文法や語彙力など基礎が身についていれば、とにかくアウトプットを続けると英語は上達すると思います。
編集部 その後東京に戻られたのですね
池田さん
東京の財務省に戻った後は2006年に国費留学生としてハーバードのケネディースクールに留学しました。好きな本の作者が同大学の教授だったことが、留学を後押しした理由のひとつです。利益を最大化するのでなく、社会的な価値を提供する組織の運営について学びました。ほかにもインドでマイクロファイナンスに携わるインターンを行ったり、ケニアのHIV孤児施設でボランティア活動に励んだりと、見聞を広めました。
編集部 留学で印象に残った出来事を教えてください
池田さん
自分がマイノリティーの立場に立った経験は忘れられません。クラスメイトの中では最も語学力が劣っていましたし、欧米の大学院で勉強したり、働いたことがない人は私以外にほとんどいませんでした。非常につらい時期もありましたが「授業で必ず1度は質問する」などと目標を決めて取り組むうちに、少しずつ心理的なバリアがなくなり自信もつきました。2年間の留学生活を経た後は2008年に財務省に戻り、国際関係の業務を扱う部署に配属になりました。
編集部 ちょうどリーマンショックが起きた年ですね
池田さん
1つの国で危機が起こると、瞬時に、更に拡大した形で世界に広がることを痛感しました。欧米市場を調査し、日本の財政に必要な提言をつくるチームに当時は在籍していたのですが本当に大変でしたね。その後2011年に世界銀行に移籍しました。
編集部 世界銀行での業務について教えてください
池田さん
世界銀行は債券を発行して、所得の低い国に低金利で貸し付け国を発展させる役割を担っています。私は昔から「現場で働きたい」という気持ちが強かったため、2011年にバングラデシュの現地事務所に出向しました。災害シェルターの運営について実践的なフィードバックを行うなど、市民参加型のプロジェクトを実施。現地の言葉であるベンガル語も学び、住民の意見を反映しながら課題解決に向けて取り組みました。本部でも1年ほど勤務しました。
編集部 その後はどうされたのでしょうか?
池田さん
財務省復職期間を経て、2017年8月に現職に就きました。ADB総裁とそれ以外のスタッフとの橋渡しの役割を担っています。経営の補佐や出張先の決定、書類のチェックなどが業務内容です。ADBの任務は資金と知恵の提供です。フィリピンではクラークとマロロス間の鉄道の敷設資金を融資しているほか、ミンダナオ紛争後の復興や教育分野にも投資をしています。2018年度は総額で1000億円を融資しましたが、今後は2倍程度に増やすことも視野に入れるほど、フィリピンには成長の可能性を感じています。インフラ投資以外にも、首都マニラとそれ以外都市の格差是正などが今後の重要テーマです。
編集部 ADBのような多国籍な組織を運営する上で、重視されていることを教えてください
池田さん
それぞれがもつ専門性の違いを理解することが大切だと思います。これは留学時にも感じたことなのですが、国籍や文化の違いよりも、職業の違いから発生する思考や言葉使いなどの違いの方が大変です。ADBでは部局間の異動をより活発に行っています。蛸壺化しやすい組織のなかで、人材の交流や異動を積極的に進めることが重要だと思います。
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編集部 これまでの人生の教訓をお聞かせください
池田さん
自分中心の考え方をやめ、現状を受け入れて着実に実績を積み重ねることが大切だと感じています。バングラデシュ勤務時代に学びました。財務省にいた頃は能動的に動かなくても仕事が割り当てられましたが、出向先のバングラデシュでは自分に実績がなかったため、当初は仕事の依頼がほとんどきませんでした。自分の現状を受け入れ、どんなに小さな仕事でも真摯に向き合いながら学ぶ姿勢が大事だと思います。
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【2017年7月8日Crossover】CGU物語国旗騒動
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編集部
今後の夢を教えてください
池田さん
争いのない世の中をつくるために、目の前の活動に真剣に取り組み続けていきたいです。日本の安定はアジアの安定なくして成り立ちません。現場としてのミクロと、国づくりに必要なマクロの視点を持ち続け、両者間の往復を重視していきたいですね。
編集部 座右の銘を教えてください
池田さん
「ニーベの祈り」という牧師の言葉です。変えることのできない事柄については、それをそのまま受け入れる平静さを。変えることのできるる事柄については、それを変える勇気を。そしてこの2つの違いを見定める叡智を、私にお与えください。仕事に取り組む上でも非常に大切にしている言葉です。
編集部 休日はどのように過ごされていますか?
池田さん
ランニングをしたり、青年海外協力隊の任地を訪問したりしています。日本で2001年から始めた「クロスオーバー」という活動を通じて、経済人や学生など様々な立場の人が社会課題の解決に向けて意見を交わす機会も作っています。
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