ハンゲショウやマタタビの葉の白化
登録番号2458 登録日:2011-06-08
6月にはいると、ハンゲショウやマタタビの葉が一部白くなる現象が見られます。これは受粉を助ける昆虫に、花のありかをわかりやすくアピールしているということですが、この白くなる現象のメカニズムはどうなっているのでしょうか。
葉の表面の柵状組織から、この時期だけ葉緑素が抜けてしまう、とどこかで読んだことがあるのですが、これは本当でしょうか。元の緑色の葉にもどるようですが、やはり葉緑素がもとに戻ってくるのでしょうか。葉緑素はどこにストックされていたのでしょうか。
教えてください。よろしくお願いします。
ご質問拝見しました。ハンゲショウのそれはいわゆる苞葉なので、仰るとおり、昆虫には名のありかを示すもの、一方マタタビの方は、花がなくても枝の先の方の普通の葉がそうなるので、茂み全体を目立たせているようです。
さてそこで葉緑素はどうなっているかですが、ハンゲショウの方は、近縁種のドクダミの花の白い部分と同じで、白くなっていて、その時には葉緑素がでていません。花びらと同じ状態ですね。ただし今し方、実物を確かめてみたところ、白い苞葉も、裏側から見ると緑のものがあります。断面を見ると、裏側の組織は緑で、表側の組織が白い状態です。いずれにせよ、この後、実の時期になるにつれて葉緑素が出てきます。白いときも緑の時も、細胞の中に葉緑体にあたるものはちゃんとありますので、あとはそこが発達して緑になるかどうかだけです。つまりどこかに完成した葉緑素をストックしておいて、あとからそこに持ってきたわけではなくて、遅れてその場で作っているわけです。
一方マタタビの方は、ちぎってみていただくと分かりますが、白い部分にもちゃんと緑の組織があります。ただ表面に厚ぼったい白い層があるために、下の緑が見えないだけです。厚化粧の状態ですね。近縁種のミヤママタタビはさらにこの上に紅が加わるので、艶やかになります。いずれも、あとから緑になるのはその白い層が緑になるようです。
なお緑でなかった組織が後から緑になる例は、わりによくあることで、身近なものでは例えばアジサイの花も、青や赤だったものが、実の時期には緑になります。クリスマスローズなどもそうですね。いずれも、花が開く前の蕾の段階の時には薄い緑なので、緑の蕾から緑が抜けた花の状態、そしてまた緑の実の状態、というサイクルになります。柑橘類の橙も、もともとは代々の意味なのをご存じでしょうか。あれも、緑だった若い実が冬に橙色に熟しますが、収穫しないで放置しておくと、初夏にまた緑に戻ることからの名前です。このように植物は、緑の色を作ったり抜いたりといったことを、かなり気軽にするものなのです。
塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科 教授)
勝見 允行
回答日:2011-06-13