抗生剤は肝臓や腎臓で代謝されるため、肝臓や腎臓に負担をかかることがあります。それにより、肝機能や腎機能が低下する可能性があります。また、抗生剤投与によりアレルギーが起こる可能性もあります。ごくまれにですが、スティーブンス・ジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群)という発熱、皮膚炎、眼の充血などをきたし失明や死亡することもある重篤な病気を引き起こすことが知られています。

■理由4 「腸内細菌」:腸内細菌のバランスを崩してしまう

抗生剤を飲んで下痢したことがあるという人も少なくないと思います。抗生剤は菌を攻撃するので、腸内の善玉菌も攻撃を受けます。抗生剤を使用すると、腸内フローラ(腸内細菌叢)が崩壊して下痢を起こしやすい状態になります。腸内細菌が安定していない幼少期の抗生剤投与が潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の発症率を上げているという報告もあります。

抗生剤により腸内細菌のバランスが崩れると、腸内のクロストリジウム・ディフィシル菌が勢力を伸ばすこともあります。そうなると増殖したこの菌が産生する毒素により、クロストリジウム・ディフィシル腸炎を発症します。この腸炎は通常の薬では治りにくく、治療に難渋することが少なくありません。

■理由5 「保険適応」:指定された病気以外への保険適応による処方は、違法になってしまう

抗生剤などの薬を処方するには、医療機関は病名を書いて「国民健康保険」や「社会保険」に請求する必要があります。抗生剤などの薬にはそれぞれ「保険適応」というのが決められており、通常抗生剤を使用するには、「気管支炎」や「肺炎」などの病名が必要です。

「風邪症候群」や「上気道炎」で抗生剤を使用することはできません。ですので、「風邪」で処方する場合でも、「気管支炎」など抗生剤に適した病名をつけなければならないのです。ただし、「診察した診断名」と「請求する診断名」が異なるのは違法とされています。保険組合の審査によって適正使用と認められない場合は、医療機関側の全額負担ということになることもあります。

以上のような理由より、患者さんからのリクエストがあっても安易に抗生剤を処方しない医師も多いのです。抗生剤を処方することは医療側の利益になり、患者サイドの満足度も上がるため安易に処方されることが多いのが実情ですが、抗生剤は適正に使用しないと副作用もある両刃の剣ということを考えておく必要があるでしょう。

【感染症ガイド:今村 甲彦】