各国研究 ⑩サウジアラビアとエジプト 両国の橋建造計画 160413

中東かわら版 No.7 サウジアラビア・エジプト:海上国境の画定・二国間を結ぶ橋の建設で合意 2016年4月13日 中東調査会発表

 サウジアラビア政府とエジプト政府は、二国間で係争となっていたティーラーン(チラン)島およびサナーフィール島の帰属について、サウジ側に領有権があることを確認したほか、両島の周辺部において両国を結ぶ橋を建設することで合意した。エジプトにはサウジアラビアのサルマーン国王が4月6日から5日間の日程で公式訪問中であり、4月7日にはシーシー大統領との首脳会談が実施され、シナイ半島地域開発のための投資を含む17本の投資協定や了解覚書(総額17億ドル)を締結した。また、4月10日にはサルマーン国王がエジプト議会で演説を行った。

評価

シーシー政権にとってサウジアラビアは、2013年7月のクーデター直後から政治的、財政的な支援を継続的に提供してくれる存在であった。他方、サウジアラビアにとってエジプトは、イランとの対立関係を深める中、軍事面・外交面でサウジと共同歩調をとる国々の中で要となる存在であった。両国の親密な関係は、今回の各種経済合意の締結、そして海上国境の画定に象徴的に現れていよう。

ティーラーン島、サナーフィール島は、紅海とアカバ湾を結ぶティーラーン海峡に位置する。1940年代当時はサウジの領有下にあったものの、イスラエル建国と第一次中東戦争の発生を契機に、軍事上の理由から1949年にエジプト軍に貸与された。その後、第二次中東戦争、第三次中東戦争においてイスラエル軍に占領されたものの、1982年にシナイ半島とともに返還されて以降はエジプトの支配下にあった。50年代にエジプトが領有権を主張したことでサウジとの間で帰属の問題が発生していたものの、紛争は顕在化せず、二国間関係には大きな影響を与えてこなかった。両島には軍人以外に住民はおらず、民間人の上陸は禁じられていたものの、周辺はダイビングスポットとして観光客が接近することが認められていた。

二国間を結ぶ橋のルートについては公式の発表はないが、過去に持ち上がった計画の情報などを総合すると、二国間の距離がもっとも近くなるティーラーン海峡上にティーラーン島を経由する形で建設される蓋然性が高いと見られている。サウジとエジプトは陸上で国境を接しておらず、橋が建設されれば、陸路での二国間の移動が格段に容易になることが予想される。現在シナイ半島は治安が著しく悪化しているが、半島の先端のシャルム・シャイフは観光地として国際的に有名である。今回の投資計画とあわせて、橋の建設によるヒトの移動の円滑化はシナイ半島の経済状況を好転させることにつながろう。

他方、同海域は戦略的な要衝でもある。イスラエル、ヨルダンにとっては紅海に通じる唯一の海路であり、かつてエジプトはティーラーン海峡を封鎖することでイスラエル経済に打撃を与えようとした。1979年にイスラエルと和平条約を結んだ際には、ティーラーン海峡を国際水路とし、航行の自由を相互に保障することが条文に盛り込まれている。今回のサウジ・エジプト間の海上国境の画定、橋の建設に関して、サウジのジュベイル外相はイスラエルと交渉するつもりはないと述べたが、同問題がイスラエルにとって強い関心を呼ぶものであることは間違いない。もっとも、同外相は、和平条約で規定されている国際部隊が両島に展開することは認める方針であると述べており、軍事面での実態に大きな変化が起きないのであれば、イスラエルによる反発も大きくならない見通しである。

 

図:ティーラーン海峡の周辺地図

注:緑アイコンのうち左がティーラーン島、右がサナーフィール島

出所:Google Mapより筆者作成

NHK News

サウジアラビアとエジプト 紅海に橋建設へ

サウジアラビアのサルマン国王がエジプトを訪問して、両国を隔てる紅海に橋を建設する事業など、巨額の投資プロジェクトで合意し、対イランの包囲網の強化など、みずからの外交政策への協力をエジプトに促す思惑があるとみられています。

サウジアラビアのサルマン国王は、就任後初めてエジプトを訪問していて、8日、シシ大統領と会談しました。
この中でサルマン国王は、サウジアラビアとエジプトを隔てる紅海に橋を建設することで合意したと発表し、「橋の建設は、両国の貿易を例のないレベルにまで引き上げることだろう」と述べました。
また両国は、発電所の建設をはじめ、エネルギー分野や教育分野など17の案件で投資を促進することでも合意しました。
イスラム教スンニ派の盟主を自任するサウジアラビアは、シーア派のイランとの間で対立が深まって、ことし1月に国交を断絶し、周辺各国に働きかけて、対イランの包囲網を強化しようとしています。
しかし、エジプトについて、サウジアラビアは、シシ政権を支持して経済支援を続けてきたにもかかわらず、協力が不十分だという不満があると言われており、橋の建設など巨額の投資を確約することで、みずからの外交政策への協力を促す思惑があるとみられています。

https://youtu.be/Q85KeeOtbVk?t=62