環境問題の解決方法

平成26年5月23日

自然環境

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アンケート調査による生物多様性の経済的価値の評価(CVM)の結果について

環境省では、過去に失われた干潟を再生することの経済的な価値、ツシマヤマネコの生息数を回復させることの経済的な価値について、アンケート調査による評価(CVM)を、平成25年度に実施しましたので、その結果についてお知らせします。

1.背景・経緯

・2010年に愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で、TEEB(生態系と生物多様性の経済学)の最終報告書が公表されるなど、生物多様性や生態系サービスの価値を経済的に評価することの重要性が注目されている。

・様々な主体が生物多様性及び生態系サービスの価値を認識し、その保全や利用に際して適切な意思決定が行われることを促進するため、環境省においても経済価値評価の検討を進めている。

・平成25年度は、アンケート調査による評価手法を用いて、過去に失われた干潟を再生することの経済的価値、ツシマヤマネコの生息数を回復させることの経済的価値を算出した。

 

2.評価対象

平成25年度は下記の対象について評価を実施。

■過去に失われた干潟を再生することの経済的な価値

愛知目標(※1)に基づき、1978年から2010年までに国内で失われた干潟面積の15%にあたる約1,400haを2020年までに回復させることについて、1世帯あたりの年間の支払意思額を確認。

■ツシマヤマネコの生息数を回復させることの経済的な価値

ツシマヤマネコの保護増殖の取組を進めることにより、20年後までに野生のツシマヤマネコの生息数を1980年代の推定生息数(※2)である約140頭にまで回復(現在よりも約40頭増加)させることについて、1世帯あたりの年間の支払意思額を確認。

※1…COP10で採択された生物多様性に関する世界目標。2020年を主な目標年としている。

※2…推定生息数に関する詳細は関連webページの「ツシマヤマネコ生息状況等調査(第四次特別調査)」を参照

 

3.評価手法

・WEBアンケートを用いたCVMにより評価。

・CVMでは、不適切なシナリオ設定や回答者がシナリオを正しく理解できていない場合などには調査結果にバイアスが生じ、正しく評価されない場合があるため、今回の評価は、可能な限りこうしたバイアスが生じないよう有識者による検討を経て実施した。

※CVM(Contingent Valuation Method:仮想評価法)

アンケート調査等により支払い意思を聞き取ることにより、対象とする環境の持っている価値を評価する手法。回答者に環境改善のシナリオを示し、そのシナリオを実現することに対する支払意思を確認する。

 

4.評価結果

支払意思額に評価範囲(受益範囲)である全国の世帯数(51,950,504世帯)を乗じて評価額を算出。

評価対象 有効回答数※1/回答数 支払意思額
(1世帯あたり年間※2
評価額(年間)
過去に失われた干潟を再生することの経済的な価値 873/1,040 中央値※3 2,916円 約1,515億円
平均値※4 4,431円 約2,302億円
ツシマヤマネコの生息数を回復させることの経済的な価値 801/1,040 中央値 1,015円 約527億円
平均値 2,790円 約1,449億円

※1 有効回答数は、抵抗回答、温情効果回答、回答時間が明らかに短かった回答を除いた回答数

※2 アンケートでは一世帯あたり数年間(干潟は7年間、ツシマヤマネコは10年間)継続して支払うものとして質問した結果

※3 統計的にYESとNOの回答が半々となる値。政策を実行する際に過半数の支持が得られるかどうかの境界値

※4 統計的に算出した支払意思額の平均値

 

5.評価結果に関する留意事項

・今回の結果は、仮想的なシナリオを設定し、そのシナリオを実現することの価値を評価したものであり、干潟やツシマヤマネコそのものの価値を評価したものではない。

添付資料

連絡先

仮想評価法 (かそうひょうかほう、CVM; Contingent Valuation Method) とは、環境を守るために支払っても構わない金額(支払意思金額)を尋ねることによって、環境の持っている価値金額として評価する手法である。仮想評価法では、まず環境が保全対策によって改善されたり、あるいは逆に開発によって悪化するなどのシナリオを回答者に提示する。その上で、環境改善を行うためならば支払っても構わない金額、あるいは環境悪化を防止するならば支払っても構わない金額をアンケートによって尋ねることで、環境の価値を金額として評価する。仮想評価法を使うことにより、生態系の保全やリサイクル温暖化防止の価値など、地球環境問題に関する幅広い領域についても評価することができる。

仮想評価法の特徴

仮想評価法は、次のような特徴を持っている。

政府企業が環境対策を行うためには多くの費用が必要になる。環境対策において、最小の費用で最大の効果を得ることが求められるが、そのためには環境コスト(環境対策にかかる費用)と環境ベネフィット(環境対策の効果)を比較しなければならない。費用と効果を比較するためには効果を金額として評価する必要があるが、環境には値段がついているわけではないため、評価することは容易でない。仮想評価法は、多くの人々の意見を用いて数量的に評価することができたため、環境コストと環境ベネフィットを比較することができるようになる。

しかしながら、仮想評価法は、現在の環境の状態と変化後の環境の状態を提示し、その上で環境の変化に対する支払意思金額を尋ねて環境の価値を評価する方法である。そのため、環境の状態を適切に回答者に伝えることができなければ、回答者は適切に支払意思金額を答えることができなくなってしまう。このように調査票の設計ミスなどが原因となって支払意思金額に影響を与えてしまう要因は、バイアスと呼ばれている。

バイアスは仮想評価法の信頼性に大きく影響を与える要因であるため、調査ではバイアスの影響に細心の注意を払う必要がある。仮想評価法はアンケートを用いて調査を行う手法であるため、バイアスを完全に排除することは不可能である。しかし、アンケートの設計を工夫することにより、バイアスを少なくすることは可能である。

なお近年は、保健・医療・介護の領域においても、各サービスのベネフィットを評価するために仮想評価法が用いられるようになってきた。

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仮想評価法の評価手順

1. 情報収集
第一段階では、評価対象の自然科学的データ、評価対象の利用動向、評価対象の保護対策の現状、評価対象地域の社会経済などの情報を収集するため、現地調査を行う。現地で聞き取りを行う際には、開発と環境保護のどちらか一方の立場に偏らないように、双方の立場の意見について収集することが重要である。
2. 草案作成
第二段階では、調査を行う際に使用する調査票の草案を作成する。仮想評価法では評価対象の現状と変化後の二つの状況を回答者に示す必要があるため、環境変化を説明するための具体的なシナリオを検討する必要がある。シナリオを作成する際には、回答者が一般市民であることに配慮し、回答者が理解できる説明文章にすることが重要である。
3. 先行調査
第三段階では、先行調査の実施を行う。先行調査とは小規模なアンケート調査のことである。アンケート調査を行うと、調査後に問題点が見つかることがしばしばあるので、本調査を行う前に先行調査を行い、調査票の問題点を洗い出すことが重要である。
4. 本調査
第四段階では、本調査の実施を行う。本調査を実施するためには、まず調査範囲を設定して、そこから調査サンプルを抽出する。調査方法には訪問面接調査、街頭面接調査、訪問留置調査、郵送調査、電話調査、インターネット調査などがある。それぞれの調査方法には利点と欠点があるため、それぞれを考慮した上で調査方法を判断することが重要である。
5. 環境価値の推定
第五段階では、結果を集計し、環境価値の推定を行う。本調査の調査票が回収されたら調査票のデータを集計する。集計では、まず単純推計を行って全体の傾向を把握し、次に支払意思金額に関する設問のデータを分析し、支払意思金額を推定する。以上の調査手順に従って調査が行われるが、これらの中では特に第二段階の草案作成と第三段階の先行調査が重要である。

関連項目

Wikipedia®

コンテンツは、特に記載されていない限り、CC BY-SA 3.0のもとで利用可能です。

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代替法

生態系サービスなど自然環境がもつ機能を別の商品や施設等に置き換えるときの費用で環境の価値を評価する手法。直感的に理解しやすい手法である。

ただし、置き換える商品や施設等が存在しない場合には評価ができない。また、評価対象の自然環境がもつ機能を正確に定量化することが難しい。

例)干潟の水質浄化サービスの評価

1.
評価対象とする干潟の浄化機能(窒素除去力など)を定量化する。
2.
同じ浄化機能を有する水質浄化施設を新たに建設した場合の費用(建設費やその後の維持管理費を含む)を求める。
3.
2で求めた水質浄化施設の建設費用を、評価対象とした干潟の水質浄化機能サービスの価値とみなす。

トラベルコスト法

トラベルコスト法は、訪問地までの旅費をもとに訪問価値を評価する手法。人は魅力の高いレクリエーション地であれば、高い旅費を支払ってでも訪問したいと考えるため、訪問者が支払った旅費には訪問価値が反映されるという考え方に基づく。
海外では多数の研究蓄積が存在し、国立公園管理など様々な環境政策で用いられてきた。ただし、評価対象はあくまでも訪問行動に関係する価値(レクリエーション価値)に限定される。例えば、誰も訪れないような奥地の原生林の価値を評価する場合、価値はゼロ(訪問者がいないため)となる。

例)自然公園のレクリエーションサービスの評価

1.
評価対象とする自然公園における利用状況(出発地、訪問回数、訪問人数、旅行費用など)を把握する。
新規にビジターセンターや歩道などの利用施設を整備するような場合には、整備された場合の訪問意思をアンケート調査で尋ねることもある(その場合は表明選好法となる)。
2.
利用状況の調査結果から、旅行費用に着目して訪問者をグループ分けする。
旅行費用、訪問回数、訪問人数からグループ別に求めた旅行費用の総和が、自然公園のレクリエーションサービスの価値となる。
トラベルコスト法を説明する上で、需要曲線、消費者余剰という概念が良く出てくるため、そのイメージを例示する。

需要曲線・消費者余剰説明図

需要曲線・消費者余剰とは:
評価対象について、訪問回数と旅行費用の関係を整理した右のような図を需要曲線と呼ぶ。これを見ると訪問回数30回の人は毎回1,000円の旅行費用を支払って訪問している。ところが10回目のときは需要曲線を見ると2,000円を支払うのであるが、実際には1,000円しか支払っていないため、1,000円分得をしたことになる。このように訪問回数の違う他の訪問者についても得をした分を合計していくと、図のオレンジの三角形になる。これを消費者余剰という。

ヘドニック法

ヘドニック法は、財の価格は、その財を構成する属性(車であれば車体、エンジンなど)によって説明されるという考え方に基づく。環境面の属性を利用する場合、例えば、環境条件の異なる2つの地域の住宅価格の差(環境が良好な地域ほど多くの人が選好するため、住宅価格が高くなっていることが多い)を、その環境の価値とみなす。
実際には住宅価格に影響を及ぼす属性は環境面だけでなく、利便性、築年数、大きさ等の複数の属性が考えられるため、様々なデータを集めて統計的な手法により推定する。

ただし、地域限定的なもので利益につながっているもののみが評価対象となる。

例)都市緑地の価値の評価

1.
都市緑地を中心に、都市緑地との距離と住宅価格の情報を収集する。
2.
住宅価格と都市緑地との距離の関係を把握する。この場合、都市緑地に近づくほど住宅価格が高くなり、その価格の差は都市緑地との距離の差によるものであると仮定する。
3.
都市緑地に近接する住宅価格と、都市緑地から離れるほど安くなる住宅価格との差額を集計したものが、都市緑地の価値となる。

大気汚染による損失(きれいな空気の価値)の評価イメージ

仮想評価法(CVM)

環境改善に対する支払意思額や、環境悪化に対する受入補償額を尋ねることで環境の価値を評価する手法。人々に環境の価値を直接尋ねるため、評価範囲が広く、景観、騒音防止、森林レクリエーション、水資源保全などの利用価値だけではなく、野生動物保護や生態系保全などの非利用価値も評価できる。 非利用価値も評価できることから、1990年代に入って世界的に注目を集め、今日では国内でも様々な環境政策に使われる。ただし、アンケートを用いて支払意思額(受入補償額)を尋ねる必要があるため、アンケートの内容によって評価額が影響を受ける現象(バイアス)が発生する可能性がある。このため、調査手法や調査票の設計を慎重に行い、できるかぎりバイアスを少なくすることが必要である。アメリカでは、CVMを政策に用いる際のガイドライン(NOAAガイドライン)がある。

例)自然再生事業により回復する生物多様性の評価

1.
シナリオの設定:
自然再生事業による効果を、例えば生息する魚の個体数など、変化前と変化後の状態が定量的に分かるようなシナリオを設定する。

この自然再生事業によりサケの生息数が100個体から300個体にまで回復すると仮定します。あなたはこの取組に対して●●円を支払っても構いませんか?

2.
アンケート調査の実施:
シナリオのほか、評価対象事業に対する認知度や理解度を尋ねる設問、回答者の属性(性別、年齢、収入等)を尋ねる設問を追加した調査票を作成し、アンケート調査を実施する(実際の調査票については、「平成24年度 第2回生物多様性の経済価値の評価に関する検討会 参考資料3」参照)。アンケート調査票を設計する際には、以下のポイントに留意する必要があり、調査の目的、規模にあった適切な設計とすることが重要である。また、アンケート調査を実施する前に、小規模の事前調査(プレテスト)を繰り返し行うことは非常に有効である。

■金額の尋ね方: 自由回答方式、支払カード方式、二項選択方式などがある。
■支払形式: 税金方式、基金方式、寄付方式などがある。
■アンケート方法: 郵送調査、ポスティング、Webアンケートなどがある。
■アンケートの配布数(実施数):
支払意思額は統計処理して推定するため、統計の精度を確保できるよう、
必要な回答を回収する必要がある(目安は有効回答数600以上)

3.
支払意思額の推定:
回収したアンケート結果を使用して支払意思額を推定する。推定にはいくつかの統計モデルが考案されているが、下記のように簡易に推定するツールもWebサイト上で提供されている。
→ 「ExcelでできるCVM」 栗山浩一(京都大学)
4.
評価額の推定:
評価額は、支払意思額に受益範囲(評価対象の恩恵を受けるであろう地域)の世帯数(人口)を乗じることで求める。

コンジョイント分析

複数の環境保全策の代替案を回答者に示し、その好ましさをたずねることで、環境の価値を属性単位に分解して評価する手法。生物多様性や生態系サービスの評価においては、複数の代替案の中から最も好ましいものを選んでもらう選択実験(choice experiment)が多く使われている。
CVMと同様に評価対象の範囲が広く、利用価値・非利用価値のどちらも評価可能である。また、CVMは特定の環境対策の価値を評価するのに対して、複数の代替案別に評価できるという利点もある。評価の流れは、基本的にCVMと同様で、アンケート調査により支払意思額を推定する。

ただし、CVMと同様にアンケート内容によってバイアスの影響を受けやすい。また、新しい評価手法であり、研究蓄積が少ないため、評価結果の信頼性の確保などの課題もある。

例)自然再生事業により回復する生物多様性の評価

1.
代替案の設定:自然再生事業による効果を、複数の属性と水準を用いて設定する。
代替案設定例
2.
アンケート調査の実施:
代替案のほか、評価対象事業に対する認知度や理解度を尋ねる設問、回答者の属性(性別、年齢、収入等)を尋ねる設問を追加した調査票を作成し、アンケート調査を実施する。
3.
支払意思額の推定:
回収したアンケート結果を使用し、まずは限界支払意思額を推定する。限界支払意思額とは、評価した属性(自然植生回復面積等)の単位あたりの支払意思額である。この属性別の限界支払意思額に事業の具体的な代替案の規模(自然植生回復面積、希少生物回復個体数)を乗じることで、その代替案に対する支払意思額が推定できる。更に、支払意思額に受益範囲(評価対象の恩恵を受けるであろう地域)の世帯数(人口)を乗じることで、価値を求める。
支払意思額推定例
評価額の推定:
限界支払意思額の推定にはいくつかの統計モデルが考案されているが、例えばWebサイト上に公開されている「Excelで出来るコンジョイント 栗山浩一(京都大学)」というエクセルシートを使用することで、支払意思額の推定のイメージを掴むことが可能である。
※参考
「平成23年度 環境経済の政策研究 経済的価値の内部化による生態系サービスの持続的利用を目指した政策オプションの研究 最終研究報告書 平成24年3月 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES) 京都大学 長崎大学 名古屋大学」
 
「生物多様性・生態系と経済の基礎知識―わかりやすい生物多様性に関わる経済・ビジネスの新しい動き 林 希一郎 中央法規出版2009」
 
「最新 環境経済学の基本と仕組みがよ~くわかる本 栗山著 秀和システム 2008」
 
「初心者のための環境評価入門 栗山・柘植・庄子著 勁草書房 2013」
 
「価値ある自然 生態系と生物多様性の経済学:TEEBの紹介 環境省 2012」

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