そもそもテスラ3に搭載する蓄電池は、パナソニックが供給するとみられていた。パナソニックは、テスラにとって共同で米西部ネバダ州に大規模リチウムイオン電池工場「ギガファクトリー」を建設している戦略的提携相手で、この工場に16億ドル(1700億円)を投じるだけに優先的に供給メーカーになるのは当然だ。
このため今春、モデル3の事前予約台数が発表されると、韓国の朝鮮日報(日本語版)は「電気自動車の製造コストの約30%がバッテリーの値段であることを考えればパナソニックは今回、事前の契約で最大40億ドル(約4200億円)を手にしたことになる」と羨望のまなざしを向けた。それだけでなく、世界1位として知られてきた「韓国バッテリー業界に赤信号が灯った」と危機感をあらわにした。
韓国・中央日報(日本語版)は「最大の疑問は世界1位の競争力を備えたLG化学、サムスンSDI、SKイノベーションの韓国バッテリー3社をなぜテスラが避けたのかという点だ」と問題を提起。韓国勢は技術的に良い評価を受けているが「テスラがパナソニックを選択したのは製品ポートフォリオと両社の密接な関係に押された部分が大きい」などと結論づけた。
つまり、テスラは2003年の設立当初からパナソニック製品を使用しているなど関係が強く、モデル3にはLG化学など韓国勢が生産しているパウチ型とは違う円筒形バッテリーが使われていることを理由とした。しかも円筒形バッテリーは、生産原価は安いが軽量化が難しく、耐久性や安定性などが相対的に弱いとされているとわざわざ弱点にまで言及している。
期待も一瞬で…
こうしたあきらめムードが一転したのは6月に入って「テスラがEV用蓄電池として、サムスンSDIの製品の使用を検討している」と一部で報じられたからだ。
ロイター通信など海外メディアも相次ぎ報じ、日本経済新聞もテスラがサムスンSDIからEV用蓄電池を調達する方向で最終調整-とする記事を掲載した。いずれも米国のテスラの開発拠点にサムスンSDIの蓄電池が配送され、その量がテスト用にしては大量だったというのを根拠とした。
ところが「バッテリー王国」として巻き返しを図る可能性をひめた朗報との期待感は、テスラのマスク氏のツイッター1本で崩壊した。冒頭の通りモデル3などにはパナソニック製だけを使うと明言し、「ほかの記事はすべて間違い」としたのだ。このニュースは世界中を駆けめぐり、サムスンSDIの株価は1日で8%落ちた。
ただ、マスク氏は「(家庭用エネルギー保存装置を作る)テスラエナジーのバッテリー供給企業はサムスンSDIの可能性があるということか」というブルームバーグの記者の質問に「YES」と答えた。
韓国バッテリー業界には希望が少しだけつながった格好だが、一連のから騒ぎは米アップル創業者にちなんで「第2のスティーブ・ジョブズ」と呼ばれる革新的経営者、マスク氏の一挙手一投足が及ぼす影響力の大きさも浮き彫りにしている。