ご本人向けTOP > 筒井裕之先生、杉山 愛さんと考える「生活習慣病と心臓病のリスク」

普段の生活の中で自分の心臓の健康について考えることはありますか? 心臓病と聞くと、自分には遠い存在のように思われる方も多いでしょう。ですが、心臓に負担を与え、時に命にかかわる心臓病のリスクとなるのは、高血圧や糖尿病、脂質異常症など、私たちにとてもなじみの深い生活習慣病なのです。食生活が豊かさを増し、暮らしがますます快適で便利になる中、運動不足や肥満、そして生活習慣病の患者さんが増えています。その結果、わが国では心臓病の患者さん、とりわけ心不全の患者さんも増えているのです。人ごとではない心臓病。そこで、元プロテニスプレーヤーであり、ダブルスで世界の頂点を極めた杉山愛さんと、心臓病に詳しい日本心不全学会 理事長の筒井裕之先生に、心臓の健康について考えていただきました。

筒井裕之先生

筒井 杉山さんのプロテニスプレーヤーとしてのご活躍は、全米、全英、全仏でのダブルス優勝をはじめとして、まだ記憶に新しいのですが、現役を引退されて10年だそうですね。健康面で何か変化はありましたか?

杉山 現役時代はプロとしての激しいトレーニングと、それを支えるための健康管理を徹底して行っていました。おかげで、17年間、大きなケガもなく、プロ生活を全うできたのですが、引退直後はそのペースが急に乱れたものですから、一時体調を崩しました。でも、その後また、食事や運動のバランスを取り戻し、今は健康に過ごしています。

筒井 やはり、自己管理に長けていらっしゃるんですね。ところで、スポーツ選手はそのトレーニングによって、心臓にかかる大きな負担にも耐えられるようになるわけですが、スポーツ選手でなくても、普段の生活の中で心臓に負担をかけている病気があるのはご存じですか?

杉山 よく問題になっている生活習慣病と呼ばれるものが、それに当たるでしょうか。

筒井 おっしゃるとおりです。高血圧や糖尿病、脂質異常症が代表的ですが、おもに食事や運動の生活習慣が発症に大きく関係している病気です。

杉山 ただ実際には、たとえば健康診断などで、高血圧や糖尿病、脂質異常の項目に引っかかったとしても、それが心臓に負担をかけているというところまでは、なかなか想像が及びません。

筒井 そうかもしれませんね。血管にダメージを与え、動脈硬化を起こし、それが心臓病につながっていくわけですが、高血圧にしても、糖尿病にしても、生活習慣病自体には症状がないことが多いので、どうしても甘く見がちです。

杉山 では、生活習慣病が引き起こす心臓病にはどんなものがありますか?

筒井 心筋梗塞や心不全といった病名はお聞きになったことがあると思います。心臓は全身に血液を送り出すポンプとして、休むことなく働いていますが、そのためには心臓自体にも十分な血液が必要で、その供給を担っているのが心臓の表面を伝う3本の冠動脈と呼ばれる血管です。この血管が詰まってしまって心臓に十分な血液が回らなくなり、心臓の筋肉が壊れてしまうのが心筋梗塞です。一方、心不全は、高血圧などによって心臓に負担がかかる状態が長く続いたり、心筋梗塞を起こしてしまったりして、心臓のポンプとしての機能が衰えた状態です。

杉山 心筋梗塞は、急に胸が痛くなる、心臓発作のイメージですが、心不全には症状があるのでしょうか。

筒井 心筋梗塞は、胸のあたりをグーッと押さえつけられるような非常に強い痛みが起こり、ときにはそれが30分以上続き、冷や汗が出たり、吐き気がしたりします。ただごとではない、という激しい胸の痛みが特徴的で、夜間の睡眠中など、安静にしているときでも、突然発症することがあります。一方、心不全の場合はこうした痛みはあまりありません。全身に血液を送る力が衰えて、酸素不足から息苦しさを感じたり、脚や顔にむくみが出たりします。そう聞くと、軽い症状のようにも思われますが、これがだんだんと悪化し、心臓のポンプとしての機能が果たせなくなると……

杉山 命にかかわる、ということですね。ちょっとした息切れやむくみを感じても、年齢のせいにしてしまいがちですが、生活習慣病のある方は、以前と比べてどうだろうかとか、同年代の方と比べてどうだろうかとか、少し気にしてみるといいかもしれませんね。


方法日本全国の循環器科・心臓血管外科を標榜する施設に対し、Web登録システムを通じた調査項目への回答を依頼した。
(回答取得数:2014年度1,535施設、2015年度1,506施設、2016年度1,573施設、2017年度1,565施設、2018年度1,561施設)
日本循環器学会:循環器疾患診療実態調査2018年報告書 P.15より改変。 http://www.j-circ.or.jp/jittai_chosa/jittai_chosa2017web.pdf

筒井 心不全も症状が強くなれば、入院して治療を受けていただきます。多くの方は症状がよくなって退院されますが、適切な治療を継続していないと再び悪化して何度も入退院を繰り返すことになります。今、わが国では、心筋梗塞の入院患者数はわずかな増加にとどまっていますが、心不全による入院患者数は30万人近くにのぼり、毎年1万人ずつ増加している状況です。(図1

杉山 そんなに増えているとは思いませんでした。知らず知らずに進んでしまう心臓病ですが、心臓病の発症を予防するため、そして、悪化を予防するためにも、生活習慣病の治療があなどれない、ということになりますね。

筒井 まさに、そのとおりです。まずは高血圧や糖尿病にならないようにしていただくのが第一です。もし、なってしまったら高血圧や糖尿病の段階でしっかり治療していただく。お薬を飲んでおられる方も多いと思いますが、高血圧や糖尿病は症状がないため、ついお薬を飲むことを中断してしまいがちです。でも、その先に起こりうる心臓病を頭に入れて、治療や生活習慣の管理を続けていただきたいと思います。そこは、プロのアスリートほどではないにしても「自己管理」が重要です。


方法
日本全国の循環器科・心臓血管外科を標榜する施設に対し、Web登録システムを通じた調査項目への回答を依頼した。
(回答取得数:2014年度1,535施設、2015年度1,506施設、2016年度1,573施設、2017年度1,565施設、2018年度1,561施設)
日本循環器学会:循環器疾患診療実態調査2018年報告書 P.15より改変。
http://www.j-circ.or.jp/jittai_chosa/jittai_chosa2017web.pdf

杉山 プロスポーツの現役生活は、続けられる時間に限りがあるからこそ、その期間内は頑張れたという面もあります。しかし、健康の自己管理は一生涯続くものですよね。ですから、ストイックになりすぎると、継続できません。
 現役時代ほどではありませんが、今でもバランスのよい食事を心がけています。毎食毎食考えるのは大変でも、たとえば1週間のスパンで見て、肉、魚、野菜など、バランスがとれていればいいかなと思います。
 現役を退いて初めて分かりましたが、普段、仕事をしながら運動の時間をとるのは、なかなか大変なことです。あえてジムに行こうとしても続かなかったりしますので、日常生活の中で習慣化できること、たとえば、ちょっとした距離は歩くようにしたり、家事で体を動かしたりするのも、よい運動になるのではないかと思います。

筒井 今、杉山さんにお話しいただいた生活習慣の自己管理のポイントは、私たち医師もよく患者さんにお伝えすることなのですが、トップアスリートであった杉山さんもそういう基本を大切にされているのだと知って、心強く思いました。

杉山 私も今は40代ですが、今からできることが健康な将来につながっていると考えて、あらためて生活習慣を見直してみようと思います。

筒井 そうですね。よい生活習慣を継続することが、何より重要です。


筒井 健康な方でも年1回は健康診断を受けて、生活習慣病がないかを調べてください。生活習慣病があれば、まずは生活習慣を見直す。そして、かかりつけの先生などにフォローしていただきながら、適切な治療を続けてください。もし、心筋梗塞が疑われる急な症状があれば、すぐに救急車を呼んでください。
 また、軽い息切れなどの症状でも、心不全などの重大な病気が隠れていることがあります。心不全はご高齢の方に多い病気です。世代でいうと杉山さんのご両親の世代でしょうか。もしそのような症状がみられたときは、年のせいと思わずに、一度病院で調べていただくことをお勧めします。(図2
 気づかぬうちに発症し、気づかぬうちに悪化するのが心臓病です。でも、その予防法はよく分かっていて、あとはそれをどれだけ実践できるかにかかっています。そのため、今、学会や国をあげて、心臓病に対する取り組みを強化しているところです。そうした中で、本日、杉山さんと心臓についてお話ができたのは、皆さんに心臓病について知っていただく大変よい機会になりました。杉山さん、どうもありがとうございました。

杉山 私も普段、健康といっても「心臓の」健康まで踏み込んで考えることは、なかなかありませんでしたが、これからはもっと意識して心臓によい生活を続けていきたいと思います。こちらこそ、ありがとうございました。

筒井裕之先生
日本心不全学会 理事長
(九州大学大学院循環器内科学 教授)
1982年に九州大学医学部を卒業。米国留学、九州大学医学部循環器内科講師を経て、2004年より2016年まで北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学教授、2016年7月より九州大学大学院医学研究院循環器内科学教授、北海道大学産学・地域協働推進機構客員教授を歴任。日本循環器学会理事、日本心臓病学会理事、日本心臓リハビリテーション学会理事、欧州心臓学会フェロー、米国心不全学会フェロー、欧州心不全学会フェロー。
専門は循環器内科学で、循環器疾患の患者さんの診療に従事するとともに、心筋梗塞・心不全など心血管病の病態解明と新たな治療法の開発を目指して基礎研究から疫学研究・臨床研究さらに研究開発まで幅広く取り組んでいる。
杉山 愛さん
スポーツコメンテーター/元プロテニスプレーヤー

4歳でラケットを握り、15歳で日本人初の世界ジュニアランキング1位に輝く。17歳でプロに転向し、34歳まで17年間のプロツアーを転戦。グランドスラムでは女子ダブルスで3度の優勝と混合ダブルスでも優勝を経験し、グランドスラムのシングルス連続出場62回は女子歴代1位の記録。2009年10月、東レパンパシフィックオープンを最後に現役を引退。
情報番組のゲストコメンテーター、グランドスラムのコメンテーター&解説など多方面で活躍。2011年11月3日に入籍し公私ともに活躍。2015年7月8日に第1子(男児)を出産。

「心臓の健康」について、日本心不全学会 理事長の筒井裕之先生、杉山愛さんと一緒に考えてみましょう。

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提供:ノバルティス ファーマ株式会社
監修:北里大学北里研究所病院 循環器内科 教授 猪又孝元先生
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