バッテリー PJPEYE     20220302

  • STARTUP INTERVIEW

環境・人権問題を解決する独自の植物由来の炭素を活用したカーボンバッテリーが持つ可能性とは – PJP Eye株式会社の取り組み

2022/03/02

ノートパソコンや携帯電話などにも使われている一般的なリチウムイオン電池は、2019年にノーベル化学賞を受賞した旭化成株式会社名誉フェローである吉野彰氏が1985年に開発し、旭化成とソニーによって1991年に商品化されました。現在では電気自動車(EV)の車載用電池まで広く採用されており、それまで主流であった鉛電池やニカド電池より圧倒的に軽量で、エネルギー出力が高い革命的な電池と呼ばれています。

一般的なリチウムイオン電池は、軽量であるものの正極(プラス)の材料にコバルトやニッケル、などのレアメタル、負極(マイナス)の材料には石油などの化石燃料由来のカーボン(グラファイト)が使用されており、環境負荷やリサイクル面でさまざまな課題があります。

例えば、世界で使われているコバルトの約4割がコンゴ共和国で採掘されており、その採掘にあたって未成年者による労働者就労が行われ、人権問題や利益絡みの内戦問題につながるなど、さまざまな課題も山積しています。

一方で、PJP Eye 株式会社(以下、PJP Eye)は電池の正極部分にレアメタルではなくコモンメタルを使用し、負極部分には独自に開発した植物由来のカーボンを用いるバッテリー「Cambrian(カンブリアン)™」を九州大学と共同研究の上、開発・量産化に成功しました。

Cambrian™は、リサイクル性能にも優れているので環境に優しく、従来のリチウムイオン電池と比較して高速充電が可能で製品寿命も長いことから、非常に高い評価を得ています。

2020年にはテスラやトヨタと共に、世界5大バッテリー技術保有革新企業に選出されたほか、英国政府主催のテックイベント「London Tech Week」のピッチコンテストにおけるスマートシティ部門で優勝。翌年2021年にはCOP26 (国連気候変動枠組条約第26回締約国会議) のピッチバトルにて世界2位を受賞するなど、国内外から多くの表彰を獲得しています。

今回、同社代表の仁科浩明氏にカーボンバッテリー Cambrian™とは実際に何なのか、また開発ストーリーや創業にいたる原体験、今後のビジョンについてインタビューしました。


Interviewer: Marketing & Communications, Yutaro Naoi


Interviewee Profile: PJP Eye株式会社 代表取締役 仁科 浩明 氏

30年以上のキャリアを持つ経営者 兼 発明家。ニューヨーク国連本部第2ビル内に本店を置くNGO” Eco planet, Inc.”の理事の経験を持つ。 2017年にPJPEye株式会社を設立し、共同代表・代表取締役社長に就任。

カーボンバッテリー(Cambrian ™バッテリー)の量産化に成功。そのバッテリー技術を搭載したシステムモデルにより、世界の無電化地域の隅々まで電気を届ける事業活動に邁進する。その事業活動は地球環境問題及び人権問題の解決と直結している。


カーボンバッテリー「Cambrian」とは

−−PJP Eyeが開発・量産化したカーボンバッテリー「Cambrian™」はサステナビリティという観点から高く評価されていますが、具体的に他のバッテリーとどう違うのでしょうか?

仁科氏
ほとんどの場合、バッテリーの負極部分にはグラファイトと呼ばれるカーボンが使用されており、石油などの化石資源を加工したものを2300℃以上で燃やしてグラファイトとして生成されています。
一方、私たちが独自に開発した製法で生成されているカーボンは、植物由来であるコットンを特殊な電気炉にて1000〜1500℃で燃やして生成したものを負極部分に使っています。
現在ではコットンを原材料としていますが、その他にも、サトウキビ・オリーブオイルの搾りかすなどの農業産業廃棄物を活用し、オリジナルのカーボンに変えることでサーキュラーエコノミーの実現に邁進しています。
また一般的にはリチウムイオンバッテリーではレアメタルを使用します。ゆえに環境に負荷がかかっていますが、Cambrian™バッテリーではレアメタルを使用していないので、環境負荷がかかりません。

また、 Cambrian™は活物質と酸素の結合が強固になされている構造のため、酸素分子の分離を起因とする発火や爆発などがなく高い安全性が担保されています。

高い安全性があるからこそ、高電流で充電する急速充電も可能となります。例えば一般的な電動アシスト自転車は4〜5時間ほど充電にかかりますが、2019年に自転車メーカーの老舗である丸石サイクルさんと共同開発した電動アシスト自転車は20分ほどでフル充電ができ、サイクル性能が高く長寿命な製品です。

従来のリチウム電池の場合、サイクル性能として1000〜1500回の充放電が限界なのに対し、Cambrian™は約8000回の充放電でも10%ほどの容量低下にとどまる製品となっています。従来のリチウムイオンバッテリーと比較して交換および廃棄までの時間が5倍ほどになるため、結果として廃棄量80%減となり、地球環境負荷軽減への貢献も大きなものとなります。

−−九州大学との共同研究の末、開発した植物由来のカーボンバッテリーの量産化に成功していますが、これまで前例がない中でどのように技術を見つけ出したのでしょうか。

仁科氏
2017年に九州大学の先導物質化学研究所先端素子材料部門 岡田教授と共同研究契約を締結し、実際にソリューションとして世界に広めるべく、九州大学内に研究室を構えながら製品化を実現しました。
製品・量産化に辿り着くまでの過程は、それはもう困難続きでした。例えば100℃までしか上げられない機械があったとして、そこから110℃、120℃と限界点をのばしていくわけです。
実際には多少バッファがあって、150℃まで耐えられるわけですが、一定のリスクが伴います。
そのため機械が耐えうる可能な範囲まで、ある程度リスクを取って限界までトライを繰り返して新たな技術を見出してきました。一つの壁を突破するとまた次の壁が現れましたが、目標に向けて、ステップアップすることの繰り返しでした。
カーボンバッテリーCambrian(提供:PJP Eye)

−−量産化に成功したということですが、どのようにバッテリーは活用されているのでしょうか。

仁科氏
主にストレージ(蓄電池)とEVなどの乗り物向けの2つの分野で活用されています。
例えばストレージですと、マイクログリッド・ナノグリッド・ESSなどの国内外の企業・政府および政府関係機関からのオファーがあって、それに対してまずサンプル・プロトタイプを製造・提供して、そこから大型の発注につながっていきます。
また、人工衛星で使うソーラーパネル用の薄いプリズマティックバッテリーなどにも検討されています。EVの分野ですと、電動自転車・電動バイク・電動スクーターなどのパーソナルモビリティと呼ばれるものや、大型なものでは電動船舶・電動航空機などがあります。

−−御社が開発されたカーボンバッテリーは、リチウムイオン電池やNAS電池などの既存電池が持つ環境問題や人権問題を解決できる電池だと思いますが、既存の電池と比べ劣っている部分はあるのでしょうか?

仁科氏
電池に関して大きな意味での優劣はないと思っています。例えばデータセンターの非常用電源は、今でも鉛電池が多いです。この鉛電池は世界の電池シェアの5-6割ほどあり、リチウムイオン電池は3割を超えていく市場成長をしています。
それぞれの電池が各分野でモノポリーをやっているわけで、私どもは今後そのシェアを広げて行きます。とはいえ、この分野では共生・共存が次世代において重要なポイントとなると考えています。
今の地球環境問題を鑑みますと、何十億年も続いている地球が産業革命以来わずか200数十年あまりで現在の環境に至ってしまったわけです。この現状に対する人類の責任は、利便性や利益を追求するあまり環境への配慮をしなかったことに起因しますが、ようやくその気づきが世界のムーブメントとしてここ数十年で始まったばかりです。
この現状の中で次の世代に向けて具体的な行動を通してこの地球を守りながら、文化・経済・地球環境を繋いでいくのかを考える必要がありますし、環境への意識がようやく高まりつつある今、企業と消費者が共に環境配慮を考える時代にならなければならないと思います。

−−共生・共存するために、どのような取り組みを行っていきたいと考えていますか。

仁科氏
私どものCambrian™をあと3年後にはオープンソース化し、電池に関する知財・作り方を公開することを計画しています。
公開しただけでは電池を製造することはできないので、製造設備・工場を含めたコンサルテーションをすることで、現在バッテリー製造・生産工場を持たない諸外国においても電池が作れるよう、産業・経済基盤のボトムアップに貢献していきたいと思っています。

スマホなどの電気製品を動作するためには必ず電池が必要とされますが、現在、電池を量産できる工場を持つ国は限られています。

例えば、東南アジアあるいはアフリカなどの開発途上国において、電池を生産・製造できる基盤があれば、電気は石油などの化石燃料と一緒でエネルギーですから、その国の経済成長を担うことができます。

ビジネスの戦略上、技術を抱え込む時期はありますが、激しく変わる時代の変化に順応しながら、環境に配慮するとともに新しい経済の仕組みを創出し、人々が自立できるように、電池・電気の分野で一役担う企業になることを考えています。

Cambrian™を搭載した電動自転車(提供:PJP Eye)

創業原体験 – 「格差」を減らしたい

−−仁科さんは主にIT分野でビジネスを経験されてきていますが、なぜバッテリーを開発・製造する会社を創業しようと思ったのでしょうか。

仁科氏
大学2年生の時に大学を飛び出して世界を放浪していました。その時の経験からさまざまなカルチャーショックや経済格差をこの目で見てきました。その時の驚きは、言葉で表現できるものではありませんでした。
帰国して学生時代にITビジネスを立ち上げるわけですが、現在においては平均月収3〜4万円のアフリカの人々でさえも、お金のやり取りをするためにスマホを持っています。
それらのスマホは電池・電気で当然のことながら動いています。学生時代にITビジネスを立ち上げた頃、ITのプロダクトであれば、プログラム開発途中のβ版などでも、モニター上で動作イメージを見せることで、自社の将来的なプロダクトをプレゼンテーションできてしまうわけです。
しかしながら電池というものは、そこに電池があり通電しなければ、いかなる製品も動作せず「なんなの、これ?」ということになり、プロダクトの価値はゼロになります。電池には「触ってわかる、使ってわかるもの」という本質的なリアリティがあり、「この本質が人類の生活に必要不可欠なものじゃないか」という気づきが、私が電池に携わった理由です。

−−PJP Eyeが掲げる今後のビジョンについて教えてください。

仁科氏
電気というのは生活の中で必要不可欠なものであり、私どもが世界に貢献することによって少しでも情報格差や貧困をなくせるのではと考えています。

具体的な話をしますと、小さな町・村があってそこに蓄電池とソーラーパネルによる小さな発電所(ナノグリッド)があるとします。蓄電池にIoTをつけると、そこで作った電気を売ることができます。

私どもは蓄電池からIoTまで扱って、電力の売買を小さな町・村や国でもできるようにして、電力に関する国境を超えた(ボーダーレスな)新しい経済を作ります。

話は変わりますが、現在、1kwhの電力を作るのに一般的に再生可能エネルギー以外による発電を行うと500gの二酸化炭素を排出します。

ということは再生可能エネルギーだけによるオフグリッド発電からの電気使用で完結すると、1kwhあたり500gのカーボンクレジットが発生します。IoTを活用し、電気・カーボンクレジットの情報を集約することで、ボーダーレスな新しい経済を作れると考えています。

−−少しでも格差を無くしたいという事ですが、その格差是正に対する想いの強さはどこから来ているのでしょうか。

仁科氏
全てが平等な社会は現実的ではないですが、それでもさまざまな国の子供たちを見てきて、他の国からすると日本に生まれただけで宝くじに当たったようなものです。
世界中の子供たちは、せめて10歳までは医療・教育・食の3つだけは平等で良いじゃないか、それくらい世界レベルで平等にしてあげても誰も困らないのではないかという思いがあります。それが「公平な世界」の姿であるべきです。

格差の是正に関しての補足ですが、材料にレアメタルを使わないことは、人権問題の改善にも影響を及ぼします。

電気が通っていない場所、あるいは貧困地域で生まれた人々は、子供の頃からどうしても働かざるをえないわけです。既存のリチウムイオン電池を作るとなると、レアメタルを必ず使います。

このレアメタルは大きな割合で開発途上国において採掘されていて、そこには違法な強制児童労働が強いられている現状があるのです。

「本気」で楽しむ

−−2021年にPJP EyeはPlug and Play JapanのMobility verticalで採択されていますが、実際にPlug and Playのサービスをどのように事業に活かせたのでしょうか。

仁科氏
私どもとPlug and Playさんの付き合いが始まると、メンターといわれる人たちにご指導・アドバイスを受けました。そこでは活発な議論もあって、より相手に魅力が伝わるようなプレゼンテーションやピッチ資料の作り方など、さまざまなことを学びました。
Plug and Play以外にも日本のスタートアップ支援やコンサルティングなどがありますが、Plug and Playの「企業を助けよう・インキュベーションしよう」というサポート体勢やそこに関わっている人々が本気になってくれているのを率直に感じます。
今まで私もスタートアップを数社経験してきましたが、他のインキュベーターやコンサルティングとは違い、日本から物事を見るだけではなく、地球全体を見て考えるという視座がPlug and Playには備わっていると思います。

−−Plug and Playの本社であるシリコンバレーを中心に、各国にネットワークを張り巡らし、

日本にも世界各国の情報が浸透しているため、高い視座でアドバイスをする事ができます。

そこが日本のスタートアップの方がPlug and Playを信頼しているというところにつながって

いくのでしょうか。

仁科氏
そうだと思います。Plug and Playのネーミング自体も分かりやすくて面白いですし、変に堅苦しくはなく本気の人たちと出会えるプラットフォームです。
投資家やインキュベーター、メンターなどの方々がPlug and Playのコミュニティにいらっしゃるわけですけど、みんなが本気であるというのは実際にPlug and Playがブランドになっていることの大きな要素だと思います。
私のイメージからすると、経済界のNetflixみたいな感じです(笑)。
Plug and Playというプラットフォームにどんどん参加して活発な議論・交流が出てきていると思いますし、
一大ブランドになってきていると思います。楽しくないと本気になれないのは、人間の基本原則だと思います。
「本気になろうよ」と言っても楽しくなければ本気になれない。そこがやはりPlug and Playの大きな強みだと思います。

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