ブータンの抗議に大国インドも反応
ブータン政府が抗議すると、かつてブータンを保護国としていたインドが国境守備の軍隊をドクラム高地内に進めた。中国は「インド軍の国境侵犯だ」と非難して軍隊を増派し、両軍の対峙(たいじ)が始まった。1960年代に起きた中印紛争以来といわれる深刻な軍事緊張だ。
中国はドクラム高地の西の、シッキム(インド領)とチベット自治区(中国領)を結ぶナトゥ・ラ峠の国境検問所を閉鎖し、インド人ヒンズー教徒のカイラス山巡礼阻止という制裁措置に出た。カイラス山はチベットにあるチベット仏教の聖地で、ヒンズー教徒にとっても生命の神、シバ神の住む山として信仰の対象となっている。ヒンズー至上主義のモディ首相は7月の主要20カ国・地域(G20)首脳会議で習近平国家主席との首脳会談をキャンセルした。
急激な中印関係の悪化の発端はブータンだった。ブータンには秋篠宮家の長女、眞子さまが6月1日から1週間ほど公式訪問され、ワンチュク国王夫妻から歓待を受けた。故意か偶然か、中国軍、インド軍の対峙は眞子さまが帰国してまもなく起きた。それなのに日本のメディアは、中印関係の角度からの報道ばかりで、2大国の谷間で揺れるブータンへの関心が薄いのは残念なことだ。
中印両軍の対峙についてブータン政府は沈黙を続けている。無関心だからではない。中印どちらについても国家の安全が脅かされるという小国ブータンの苦しい選択なのだ。