竹や木を原料にした、軽くて丈夫な新素材「セルロースナノファイバー(CNF)」の生産を、製紙会社が本格化させている。とくに竹は放置された竹林による被害が深刻化しており、対策に悩む自治体も新たな活用法に期待を寄せる。

植物の繊維を非常に細かくほぐして作るCNFは、1本が髪の毛の1万分の1ほどと極めて細い。細くすることで繊維同士が網目状に多く結合できるため、鋼鉄の5分の1の軽さで5倍の強度がある。ほとんどの植物から作れるが、中でも竹は他の樹木から作るCNFと比べて、プラスチックなどの樹脂になじみやすい特徴がある。

中越パルプ工業(本社・東京)は竹からCNFを作る技術を九州大学と共同で確立。今年6月から川内工場(鹿児島県薩摩川内市)で竹などを原料にCNFの商業生産を始める。生産量は年間計100トンの予定。

竹林面積が全国一の鹿児島県薩摩川内市でも所有者の高齢化などで放置竹林が課題だ。地元要望を受けて同社は1998年から農家らから竹を買い取っており、年間約2万トンが集まる。これまで竹紙を作ってきたが、より有効に使えないかと竹CNFの研究に取り組んだ。市の担当者も「CNFで竹の需要が増えれば放置竹林が減るのではないか」と期待する。

林野庁によると、全国の竹林面積は16万1千ヘクタール(2012年)で81年より約12%増えた。繁殖力が強く、とくに関東以南で拡大している。放置竹林によって京都ではスギやヒノキが枯れる被害が発生。香川では台風時に土砂災害が起きた。「竹林は根が浅い傾向があり、土砂災害のリスクがある」と香川県の担当者。

竹は竹炭や紙、道路の舗装材などに加工されてきたが需要は減っている。立正大の鈴木重雄特任講師(生態地理学)は「竹林は点在しており輸送コストがかかるうえ、中が空間の竹より木の方が素材として活用効率が良い。竹林の拡大を抑えるには、商業利用の成功よりない」と語る。

■商品化進む 課題はコスト

竹以外のCNFを使った商品は実用化され始めた。

日本製紙(本社・東京)は消臭効果を高めるため、肌に触れない部分にCNFシートを入れた大人用紙おむつを15年10月に発売した。今春以降、主に国内外の針葉樹を使い、宮城県石巻市の工場などで年間500トン以上のCNFを生産できるよう規模を拡大する。三菱鉛筆(同)は第一工業製薬(本社・京都)と共同で、インクにCNFを混ぜてかすれにくく乾きやすいボールペンを開発した。昨年から国内販売している。

大阪大の能木雅也准教授(材料学)らはCNFで透明な紙を作り、薄い太陽電池の製造に成功した。

課題は1キロ数千円とされるコスト。原料となるパルプは1キロ50円程度だが繊維をほぐす加工に手間がかかる。京都大はコストを下げる研究や、自動車部品をCNFに置き換えて軽量化する取り組みを進める。京都大の矢野浩之教授(木質科学)は「国内に豊富な森林資源を生かして、世界に進出できる技術。プラスチックや金属を少しでもCNFで置き換えることができればいい」と期待する。(後藤一也、佐藤建仁)

〈セルロースナノファイバー〉 植物の細胞壁を構成するセルロースを細かくした繊維。太さは約10ナノメートル(ナノは10億分の1)。木材から取り出したパルプをほぐして作られる。プラスチックやゴムに混ぜると強度が上がり、熱による伸び縮みも小さくなる。2004年ごろから研究が本格化し、米国や中国、北欧も開発に注力している。