日本発 夢の新素材 ①セルロースナノファイバー ②デユアルカーボンバッテリー ③カーボンナノチューブ

セルロースナノファイバーや ナノチューブファイバー デュアルカーボンバッテリー などの言葉を 耳にすることが多くなった。 幾つかの映像を見てみよう。 それぞれの特徴があるが いずれも 日本発の新素材活用のサイエンスである。

これらの特徴が 生かされれば 素晴らしい夢の素材ができて 貢献するばかりでなく 竹害などの環境問題の

解決にも貢献する。 今まで厄介者だったものが 貴重な資源として 活用されるからだ 一石二鳥の世界が可能になる。では 基本的に どう素晴らしいのか 話を聴いてみよう。セルロースファイバーは 鉄の半分とか~10分の1などの数字が見えている。それぞれ 深堀りして自分で 検証してほしい。また 強さは 鉄の500倍という数字も出てくる。

これが 可能なら乗り物を始めとして 色々なところで採用されていき 新しい世界を創って行くだろう。日本は 科学技術立国となって世界に貢献していくだろう。

 

 

植物から作られる鉄よりも軽くて強い新素材 CNF
自動車から化粧品まで

 

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 222.

企画特集 10-9 INNOVATIONの最先端 ~Life & Green Nanotechnologyが培う新技術~
<第36回>
竹や間伐材から取り出すセルロースをナノメートルサイズに微細化する技術を開発
~セルロースナノファイバーが拓く新素材の可能性~
中越パルプ工業株式会社 開発本部開発部 上級技師 田中 裕之氏に聞く

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紙は,私たちの日常生活のなかで,様々な用途で使われている.本やノート,新聞紙,紙袋や包装紙,トイレットペーパーやティシュー,化粧箱や段ボール箱,等々.こうした紙の殆どは,天然資源である樹木を原料にして,繊維状のパルプとして取り出し,それをシート状に加工したものである.微細なセルロース繊維からなるパルプは,人間の髪の毛より細い数10µm径で,長さは1~3mm程度である.これを更に千分の1のnmサイズ幅にまで微細化した“セルロースナノファイバー”が,従来の紙とは全く違った優れた特性を持つ新素材になる可能性を秘めている,と最近期待が高まっている.

 2015年1月末に開かれた国際ナノテクノロジー総合展・技術会議の展示会nano tech 2015でも,セルロースナノファイバー関連の出展が複数件あった.なかでも中越パルプ工業株式会社が出展した新しいセルロース微細化技術は,nano tech大賞2015の産学連携賞を受賞し,注目された.展示会の報告書によれば,受賞理由は「九州大学と共同で竹や間伐材から取り出すセルロースをナノメートルサイズに微細化する技術を開発した.処分に困った天然資源を包装材料や構造材料,光学部品など様々な工業製品に応用できる可能性を示したことを賞す」とあった[1].

 そこで今回,富山県高岡市の中越パルプ工業株式会社 高岡本社を訪問し,開発本部開発部 上級技師の田中 裕之氏に,セルロースナノファイバーの開発状況や今後の展望など,お話を伺った.なお取材には,同社の取締役開発本部長の高岸 伸氏,経営管理本部管理部調査役の古瀬 宏尚氏,開発本部開発部技師の高橋 創一氏にも同席していただいた.


 

1.中越パルプ工業とパルプ製造

セルロースナノファイバーの話しに入る前に,先ずは中越パルプ工業と紙パルプ製造に関する基本的なお話しを古瀬調査役から伺った.

1.1 中越パルプ工業の概要紹介

中越パルプ工業は1947年創業の製紙会社で,登記上の本社は東京にあるが,本社機能の実働部隊は高岡市にある高岡本社にいて,開発本部も高岡本社と同じ建屋内にある.図1右下の写真が高岡事業所の全景で,高岡本社に隣接して最大の製造拠点である高岡工場があり,印刷用紙・包装用紙を製造している.製造拠点としては他に,同じ高岡市内の二塚製造部(主に新聞用紙の製造)と,鹿児島県の川内市に川内工場がある.中越パルプ工業の代表的な製品用途は,書籍・ノート・コピー用紙・カタログ,新聞紙,ビール瓶のラベル,紙のトレー,包装用紙,米袋,手提げ袋,紙コップ・食品用紙カップなど.住宅用の壁紙の原紙はトップシェア,アイスクリームやヨーグルトのカップ類向け原紙もシェア1~2位とのこと.一方,段ボール系の包装用紙や,トイレットペーパー・ティッシュ・紙おむつ等の衛生用品は製造してない.

 https://youtu.be/mWPgnbRYNRM?t=2

1.2 紙パルプの製造工程

図1は紙パルプの製造プロセスを示したもので,左上に描いたように木片チップを蒸解釜で煮て,繊維状にほぐして取り出したもの(黒いパルプ)を白く漂白してから,シート状の紙に加工する.蒸解釜からは,パルプ繊維の残り滓である廃液を取り出し,濃縮してから回収ボイラーで燃やして発電し,できた電気は工場内で利用している.工場写真の右端にある白い蒸気を出している煙突が回収ボイラー,その左側に高さ60m余の蒸解釜タワーが2本ある.回収ボイラーからは,蒸解時に添加した無機薬品(水酸化ナトリウム)も回収して蒸解釜に再投入している.木片チップからは紙パルプを作るだけでなく,電気と薬品の2系統の資源リサイクルが行われている.


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図1 紙パルプの製造プロセス(右下の写真は,高岡事業所の全景)[2]


紙パルプの原料は,古紙を再利用する製造工程を別にすると,木材のチップであり,戦後に植林して森林を整備育成するなかで,過密になっていく木々の一部を計画的に伐採した間伐材や,建築用木材の端材をチップ化して原料としている.「中越パルプ工業では,木材以外に竹を原料にしたパルプの製造も行っているのが特徴です」,と高岸開発本部長が竹パルプ,竹紙について話された.竹は昔こそ竹籠や竹垣などに使われていたが,今はタケノコとしての食用が中心になっている.タケノコの栽培農家は九州に多く,4~5年毎に間伐しないと良質なタケノコが採れないということで,間伐竹材の処理が問題になっていた.そこで,中越パルプ工業の鹿児島県川内工場で,20年近く前から放置竹材を原料にした竹パルプの製造に取り組んできた.竹は成長が速いものの,中が空洞なのでパルプ原料としては生産効率は低くなってしまう.そこで,タケノコ農家の人にチップ工場まで竹材を運んできてもらい,適正な価格で買い取ってチップ化することで,双方にとってWin-Winの関係を築いているとのことである.竹は表面が木材に比べて硬いので,チップ工場の切削刃が直ぐ傷んでしまうというハンディもあるが,放置竹林問題を解決し里山の保全に貢献するとして,中越パルプ工業の竹紙はエコプロダクト大賞農林水産大臣賞ほか高い評価を受けている.

 高岸開発本部長は,更に次のように語られた.「紙の事業はIT化の進展や,少子高齢化に伴って年々厳しくなっている.通信販売や高齢化で段ボール系や衛生用紙は伸びているが,自社ではやってない.印刷用紙分野は,先進国ではどこも縮小している.そこで,パルプを紙以外に何か新しい用途に利用できないか? 特に,竹パルプを国内で唯一製造しているという特徴を活かせないか,ということで竹材を含めパルプのナノファイバー化に取り組み始めた.」


2.パルプの成分と竹素材の特徴

田中上級技師に,パルプの成分や繊維構造,木材と竹材との成分・繊維構造比較など,技術の詳細について説明していただいた.

2.1 パルプの成分

木材チップの組成は,約半分が水分で,1/4がセルロース,残りの1/4がリグニンと呼ばれるセルロースの接着剤から構成されている.図1のパルプ製造工程で最初の蒸解釜では,木材チップにアルカリ薬品(水酸化ナトリウム)を混入し160℃の高温で煮ることで,リグニンをアルカリに溶かして取り除く.この段階では,セルロース繊維は黒いパルプとして釜から引き出され,洗浄工程や異物をフィルタを通して取り除く精選工程を経てから,酸素漂白など4段階の漂白工程を通す.こうすることで少し残っていたリグニンをほぼ0になるまで減らし,白色のパルプが得られる.

 こうして出来上がった繊維状のパルプの主成分はセルロースで,その分子構造は図2左上に示されたように(C6H10O5)nで表される直線状の炭水化物である.重合度nは1000程度あり,直鎖上に重合した天然の高分子である.図2下部の表では,竹パルプと広葉樹・針葉樹からのパルプについて,成分を比較している.


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図2 パルプの成分と竹・広葉樹・針葉樹の比較


広葉樹パルプは,中越パルプ工業で年間50万トンと最も多く生産している.ポプラやユーカリなどが原料で,繊維長は1mm弱と短く,きめが細かいので印刷用紙に使用される.針葉樹パルプはマツ,モミなどが原料で,繊維長は3mm程もあって長く,丈夫であり,コメの袋他の包装用紙に使用される(年間生産量は18万トン).竹パルプは年間生産量は4千トンと少量ではあるが,放置竹林問題を解決する意味もあって九州の川内工場で生産している.竹パルプの繊維長は2mm程度,繊維幅20µm程度と細く,長さ/幅のアスペクト比は100程度と3種類のパルプの中では一番大きい.いずれのパルプも,セルロースが83%以上と主成分になっている.残りの10%強はヘミセルロースと呼ばれるグルコース骨格が枝分かれした繊維で,重合度は100~300程度と低い.リグニンは,図2右上のような複雑な3次元網目構造をしたフェノール樹脂に近いもので,1%オーダーで若干残っている(広葉樹パルプの場合は殆ど0).木材が茶色をしているのは,このリグニンのためである.


2.2 竹素材の特徴

竹パルプの特徴として,繊維状のセルロースだけでなく,柔細胞を含んでいることが挙げられる.竹がしなやかに曲がるのは,この柔細胞が存在しているからである.図3は,竹素材の断面構造を順次大きく拡大しながら観察したもので,繊維質の他にデンプンが中に詰まった柔細胞が見れる.竹が春の季節に1日で1~2mも成長するのは,この柔細胞の中のデンプンを使って成長するからで,秋にはデンプンは減っている.パンダは竹を食料にしているが,このデンプンを栄養分として消化吸収しているのであろう.竹パルプを構成している繊維と柔細胞は,メッシュによるろ過を繰り返すことで分離でき,2つの成分比を用途に応じて最適化することも可能である.なお,柔細胞の表面もセルロースでできているので,微細化していけばナノファイバー化できる.


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図3 竹素材の断面構造(繊維質と柔細胞)

https://youtu.be/wVo8-LN2z8g?t=334

3.ナノセルロースの特徴と研究動向

3.1 ナノセルロースとは?

セルロースナノファイバーあるいはナノセルロースは,全ての植物の基本骨格物質であり,セルロース繊維を微細化することで得られる.サイズとしては直径が100nm以下,アスペクト比100以上のファイバーと,一般に言われれている.

 図4は,木材の断面の一部を電子顕微鏡で1,000倍に拡大してチップ断面として観察し,更にチップから取り出した幅20µm程度のパルプを2,500倍で観察したものである.このパルプは,セルロース分子鎖,ミクロフィブリル,フィブリルと階層的に構築された構造を有している.幅10nmのセルロースナノファイバーの場合,数本のミクロフィブリルが集合した状態まで微細化された状態のものを指す.パルプの繊維からセルロースナノファイバーまで,1,000分の1のダウンサイジングである.図4右下の電子顕微鏡(SEM)写真は,パルプ繊維の表面を観察したもので,セルロースナノファイバーが集まってできている沢山の繊維のヒダが見える.


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図4 木材断面からセルロースナノファイバーに至る階層構造


代表的なナノテク素材のカーボンナノチューブでは,ファンデルワールス力によって複数本凝縮してしまうが,セルロースナノファイバーでは図2左上に示したセルロース分子が6本×6本程度集まって3~4nm径のナノセルロースを形成していることが観察されている[3].この場合,セルロース分子間の結合は主として水素結合によるもので,ミクロフィブリル,フィブリルと太く成るにしたがってフォンデルワールス力やリグニンによる接着剤効果が効いてくる.

 カーボンナノチューブの場合,分散されたナノチューブは放っておくと互いにくっついてしまって使い物にならなくなってしまうが,セルロースナノファイバーの場合は解繊して水中に入れておいても直ぐにはくっつかない.繊維をほぐして微細化する技術と共に,できたセルロースナノファイバーを如何にして規則正しく並べるか,あるいは別の材料に如何にして分散して混合させるかの加工利用技術も世界中で開発されつつある.


3.2 セルロースナノファイバーの特徴

パルプ繊維の状態で作られる紙と違って,繊維を微細化したセルロースナノファイバーは強度・透明性の面で優れた特性を持つ.

 図5は,NEDOから報告されているセルロースナノファイバーの特徴で,

①高強度;鋼鉄の1/5の軽さで,鋼鉄の5倍の強度

②透明性;可視光の透過率は90%程度
(紙は,パルプ繊維間の空隙のために光が散乱され,白く不透明)

③寸法の熱的安定性;ガラスと比較すると線膨張率は1/50

ということで,注目されている[4].図5右下の写真は,中越パルプ工業で製造した竹のセルロースナノファイバーを走査型プローブ顕微鏡で観察したもので,最小ファイバー径は2nmと非常に細い.


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図5 セルロースナノファイバーの特徴[4]


3.3 海外の研究動向

前述のように,先進国での紙の需要はIT化の進展により下降傾向にあり,製紙業が盛んな北欧と北米では,森林産業の新たな高付加価値製品を創出すべく,今世紀に入ってからナノセルロースの研究開発が活発に行われている.北欧ではノルウェイ・フィンランド・スウェーデン,北米では米国・カナダが,いずれも産官学が連携して,基礎研究から応用展開まで幅広く取り組んでいる[5].特に,フィンランドや米国ではナノセルロース製造のパイロットプラントを多くの開発拠点に建設し,そこで製造したサンプルを応用先に提供してナノセルロースの用途開発を加速している.用途開発では,既存の紙にナノセルロースを少量添加して,強度・表面平滑性・印刷適性などを向上させることが,最初の実用化ターゲットとして取り組まれている.それと並行して,強化プラスチックなどの構造材ほか,高機能用途も開発中である.

 海外の研究機関では,ナノセルロースの安全性についても各所で検討されている[5].セルロースは既に様々な食品・医薬品に沢山使用されていて,セルロース自身には毒性はないことは実証されている.ナノセルロースが毒性を示すとすれば,ナノの形態・残存薬品・添加剤などの影響が考えられる.現時点で未修飾のナノセルロースについては,毒性・遺伝性試験・環境への影響などの面で,安全性に問題はないとの評価結果がフィンランドなどで報告されている.中越パルプ工業のナノセルロースは,後述するように水とパルプだけから製造しているので,最も安全であると考えている.なお今後は,最終製品状態での安全性確認が必要であろう.


3.4 国内の研究拠点

国内でも今世紀に入って,ナノセルロースの研究開発が活発化してきている.大学では東京大学,京都大学,九州大学などが研究拠点になっている.その中で,九州大学の近藤 哲男教授と,中越パルプ工業は共同研究している.また,国のプロジェクトとしてNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が中心になってセルロースナノファイバーの製造・表面修飾・複合化技術,実用化を目指した開発が推進され[4],2014年6月には経済産業省が中心となり「ナノセルロースフォーラム」(事務局は産業技術総合研究所)が立ち上げられた.また,2014年6月24日に閣議決定された「日本再興戦略」改訂2014において,「ナノセルロース(セルロースナノファイバー)の研究開発等によるマテリアル利用の促進に向けた取組を推進する」と記載されたことを受けて,「ナノセルロース推進関係省庁連絡会議」が設置された.この連絡会議には,農林水産省,経済産業省,環境省,林野庁などが参加している.さらに,2015年6月30日に閣議決定された「日本再興戦略」改訂2015の林業の成長産業化の項に,「木質バイオマスについて,(中略)セルロースナノファイバーの国際標準化に向けた研究開発を進めつつマテリアル利用への取組を推進する.」と記載され,日本の国家戦略テーマの一つとして取り上げられている.

 欧米の研究開発状況と比較すると,パイロットプラント建設では多少遅れをとっているものの,セルロースナノファイバー関連の特許出願件数は日本が1位である.日本57%,欧州20%,米国9%,の順に出願が多い[5].特許出願は2009年以降に急増しており,基礎研究から用途開発まで,日本は本分野において技術開発をリードしていると言えよう.


4.セルロースナノファイバーの製作技術

4.1 セルロース微細化の各種アプローチ

セルロースナノファイバーを作る調整方法としては,下記の4種類のアプローチが検討されている.

(1)物理的な処理
 強力な機械的せん断力により解繊を行う方法.微振動する球体ビーズの隙間にセルロース繊維を通して解繊するビーズミル法,高速回転する石臼に挟んで微細化するグラインダー処理など.後者は京都大学で検討が進んでいる.

(2)化学的な処理
 繊維に化学的な修飾を施し,小さなせん断力でナノ化する方法.東京大学の磯貝 明教授が発明したTEMPO触媒酸化法と呼ばれる方法で[3],パルプ繊維の分散液中にTEMPO他の酸化触媒を添加し,セルロース繊維を酸化させて静電反発を生じさせることから,ミキサーの弱い撹拌で3nm径のシングル・ナノファイバーが得られている.

(3)電気的な処理
 高電圧をかけ,電子が電極間を移動する作用を応用した方法.注射器に繊維を溶かした溶液を入れ,注射器の針先と対向する金属板との間に高電圧を加えると,針先から金属板へと溶液が飛行するが,溶媒は揮発し,ナノファイバーが金属板に付着する.

(4)生物的な処理
 微生物により生成する方法.食品のナタデココを作る菌として知られている酢酸菌で,リボン状(幅40~60nm)の結晶性セルロース・ナノ繊維を生産する方法や,酵素分解を利用してセルロースをナノ化する方法などがある.九州大学の近藤教授の研究室でも,微生物を利用して基板上に規則正しくナノファイバーを創製する研究を行っている.


4.2 水中対向衝突法によるセルロース微細化

中越パルプ工業では,上記4種類の方法の物理的な処理法の一種を採用している.「中越パルプ工業では竹素材由来の紙も製造しているが,木材由来のパルプから作った紙と大きな特性の違いはなかった.そこで,µmサイズのパルプ繊維ではなく,nmサイズのセルロースナノファイバーにした場合には何か特徴の差が現れてくるのではないか?」と,田中氏がナノセルロースの研究開発に着手した動機を語られた.

 中越パルプ工業が採用した方法は,九州大学の近藤 哲男教授が発明した“水中対向衝突(ACC:Aqueous Counter Collision)法”で,パルプを水中に分散させた懸濁水同士を衝突させるという非常に単純な方法である[6].図6左側にACC法の原理構成を示した[2].パルプ繊維と水をタンクに投入して分散させ(水99%:パルプ1%),プランジャーで加圧してから,チャンバーに送る.図6右側は,チャンバー内を拡大して描いたもので,2つの水鉄砲を対向させてある.2つの水鉄砲のノズルから,繊維分散水を高速に噴射して衝突させる.この時の噴射圧は100~200MPa,噴射速度はマッハ2まで高められている.衝突時に水のサイズは小さくなって,繊維の中に入り易くなる.水が繊維内部に侵入する力で繊維間の結合がほぐれ,微細化が進む.プランジャーの圧力を制御し,衝突時の噴射圧を変化させることで,ナノスケールでのサイズ調整が可能である.このACC法は,パルプと水だけを用いるセルロース微細化法であり,安全性が保証されるので食品・医療分野にも適用できる.また,この方法はセルロース分子間の弱い水素結合のみを開放して,セルロース分子そのものにはダメージを与えないので,原料の特徴が出やすいという長所がある.竹素材のナノセルロースで何か特徴が出せないか,期待が持てる調整法である.しかし,流路が細く高濃度での処理は難しいので,このままでは量産には向いていない.


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図6 水中対向衝突法(ACC法)によるナノセルロースの製造[2]


ACC法では,図6左側に描いた原料の流れを1回だけでなく,多数回繰返すことで微細化の程度を上げている.図7は,パルプ繊維が衝突回数を増やす度に徐々に微細化されていく様子を示している[2].上半分は光学顕微鏡による400倍の観察で,左から右へ未処理,4パス,7パス,10パス後に観察したものである.4パス後では未だ幅20µm程の未解繊の繊維が残っているが,10パス後では光学顕微鏡の解像度に近い1µm程まで微細化されている.図7の下半分は,ACC法の初期段階のパルプ繊維表面の様子を示すSEM観察写真で,パルプ表面の皮が剥けていくような具合に,セルロースの微細化が進んでいることが分かる.


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図7 セルロース繊維がACC法で徐々に微細化されていく様子[2]


4.3 量産に向けた製造法

中越パルプ工業では,ACC法を改良して,より量産化に適したナノセルロース製造法を検討している.図8に描いた“水圧貫通微細化法”と仮称している方法は,既に中越パルプ工業で特許を取得している技術である[7].チャンバーの中に配置された水平方向の太いパイプの中に,パルプ懸濁液を流し,その上部から水鉄砲で水を下方に打ち出し,パイプの上下にあけた穴を貫通させる.そうすることでパイプ中を流れる繊維が微細化され,パイプ下部の穴から微細化されたナノセルロースを取り出すことができる.水鉄砲には水だけを流しパルプ繊維は入れないのでトラブルが少ない,パルプ繊維分散液は高濃度にすることができる,しかも水鉄砲は一つだけなので高圧ノズル径は太くできる,ということで大量処理が可能となる.ACC法の特徴を維持したまま,量産に適した製造法と言える.既に製造装置を有しており,ACC法の前処理法として活用する.


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図8 大量生産に適したナノセルロース製造法[7]


5.ACC法で生産したセルロースナノファイバー

5.1 ACC法で発現するユニークな特徴

セルロースの繊維は一般に親水性を示すが,ACC法で作ったセルロースナノファイバーは親水性に加えて疎水性も持たせることができる,という特徴がある.

 図9左上に示すようにセルロース分子は直線状の構造をしていて,横から見てOH基が出ている面では親水性を持っている.一方,図9の右上図を上から見た面では,CH結合なので疎水性になっている.つまり,セルロース分子自体は親水性と疎水性の両方の部位を持ち合わせている.セルロース分子は疎水性の面(黄色)をもった長いリボン状で,その両端が親水性(水色)と考えてよい.このリボンを積み重ねたものが結晶で,図9の左下図のように水色の丸同士が結合して規則正しく並ぶ.すなわち,セルロース分子同士がOH基を介して水素結合して結晶を作ると,結晶全体は水色の丸で取り囲まれるので親水性となる.

 ACC法によるセルロース繊維の微細化は,リボン(セルロース分子)の疎水面間の比較的弱い結合箇所に水が進入することで,得られるセルロースナノファイバー表面には図9の右下図に示すような疎水性部位が出てくると考えられている.つまり,ナノファイバー化によって疎水性を付与できる,といえる.このACC法により得られるセルロースナノファイバーの表面特性は,他のナノファイバー化手法では得られない特徴である.


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図9 セルロース繊維の親水性と,ナノセルロースへの疎水性付与


上述した特性を応用すると,ACCセルロースナノファイバーを表面塗布することで親水性物質を撥水化,また逆に撥水性物質を親水化することが可能になる.図10の上半分は,水を良く吸う「ろ紙」に水滴を落とした様子で,ACC法で作成したナノセルロース分散水を塗布した後では,接触角51°で水玉が盛り上がる様子が分かる.「ろ紙」表面にはナノセルロースの親水性部位が吸着し,疎水性部位が外を向くので,「ろ紙」表面が撥水化されていると考えられる.図10の下半分は,水をはじくポリエチレンシートの場合で,左側がナノセルロース塗布前の水滴をはじいている状況(接触角97.6°),右が塗布後の水滴が広がって殆ど平らになっている状況(接触角31.1°)を撮影したものである.ポリエチレンシートの表面にナノセルロースの疎水部位が吸着し,親水性部位が外を向くので親水化されたと考えられる[8].


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図10 ナノセルロース表面塗布による撥水化・親水化[8]


別の応用として,非水溶性の有機溶剤とナノセルロース分散水を混合させるとエマルジョン(乳濁液)を形成する.ナノセルロースが入ってない純粋な水と有機溶剤を混合させても,数分後には2層にきれいに分離してしまう.エマルジョンを形成すると,1年経ってもその状態は安定に維持され,2層に分離することはない.これは,有機溶剤の表面をナノセルロースの疎水部が覆うことによってミセルを形成するからで,ACC法のナノセルロースでは化学修飾のような特別な処理をすることなく,エマルジョンができる.特に竹素材のナノセルロースでは,木材のそれよりも疎水性が強く,より完全に混ざり合ったエマルジョンが形成できる[9].


5.2 ACC法で調整したナノセルロースのサンプル提供

中越パルプ工業では2013年から,ACC法で調整したセルロースナノファイバーのサンプルを提供している[2].図11に代表的なサンプル例を紹介している;

①濃度;セルロースナノファイバー濃度としては1%と10%の2種類.共によく分散しているが,1%はゲル状の分散体,10%は高粘度のペースト状になっている.

②解繊度合;低,中,高の3種類.ACC法の処理条件のレベルによる.

③パルプ素材;竹,広葉樹,針葉樹の3種類.

実際に提供しているサンプル品を,田中氏・高橋氏に見せていただいた(冒頭の写真参照).低解繊の1%濃度サンプルは,白濁していて,これをすくえば白い紙が出来そうだが,高解繊の方は繊維径がナノサイズまで細くなっているので,ほぼ透明になっている.ナノセルロースの繊維径,粘度,結晶化度はパンフレットにしてホームページで公開している[2].実際の工程では,透明性,ろ過性,沈降性などを評価してサンプル提供している.

 セルロースは結晶とアモルファス状態とが混ざっており,X線回折の測定から結晶化度を評価している.竹素材のナノファイバーでは,解繊度合が進むにしたがって結晶化度が低下し,つまり疎水性部分がより多く顔を出し,そのため疎水性が大きく発現しているものと考えられる.

 サンプル提供先の業種としては,図11右上の円グラフにあるように,材料・成型加工・自動車など,また研究機関も多い.提供先の要望に応じたサンプルを提供することで,用途開発を協力して進めるようにしているとのことである.


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図11 ACC法で調整したナノセルロースのサンプル提供[2]


6.ACC法で調整したセルロースナノファイバーの利用例

6.1 シートの特徴

ナノセルロース分散液を吸引ろ過してから,ろ紙上に残ったセルロースナノファイバーシートをガラス板で挟んで乾燥脱水すると円形シートが出来上がる.図12は,こうして調整した直径75mm・厚さ50µmの竹素材100%ナノセルロースシートで,左側のくすんだものが低解繊シート,右側の透明なものは超高解繊のシートである.超高解繊シートは右下の写真に示すように,200m先の高岡工場まで良く見える.竹素材のナノセルロースシートは,透明性が優れているだけでなく,乾燥条件を調整することにより木素材よりも強度を高められる.


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図12 ナノセルロース100%のシート:解繊度合いによる透明性比較[2]


6.2 樹脂コンポジット

熱可塑性のプラスチック樹脂にナノセルロースを加えると,プラスチックの強度が改善される.図13に示すように,ポリエチレン樹脂にナノセルロースを混錬させ,二軸スクリュー混錬押出し機でプラスチック・ナノセルロース複合体を作成している.2011~2012年頃から,2年間の富山県委託事業に採択されたのをきっかけとして,富山県工業技術センタと共同研究して,プラスチック・ナノセルロース複合体の研究開発をしているが,ナノセルロースをプラスチック内で均一に分散させることはなかなか困難であった.疎水性のプラスチック樹脂中では,ナノセルロースが親水性によって凝縮してしまうからと考えられる.


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図13 熱可塑性ポリエチレン樹脂へのナノセルロース複合化


そこで,ナノセルロースの表面を疎水化すべく水溶媒を含んだまま疎水化する技術を開発し,プラスチック樹脂に疎水化ナノセルロースを均一に分散させることに成功した.疎水化ナノセルロースを5%配合すると,弾性率が2倍以上になることが確認されている.

 ところが,疎水化処理をしてない未修飾のACCセルロースナノファイバーでも,ポリプロピレン樹脂に均一に分散した高強度の複合樹脂が得られることが分かり,2015年1月のnano tech展の前々日にプレスリリースした[10].出光ライオンコンポジット(株)・(株)三幸商会と共同開発したもので,図14に電子顕微鏡(TEM)で観察した写真を示す.竹素材のナノセルロースは疎水性が付与しやすく凝縮しないで均一に分散しており,ポリプロピレン樹脂がナノセルロースを起点として結晶化している様子が分かる.プラスチック樹脂にナノセルロースを少量添加するだけで,強度が高まり軽量化できる技術ということである.


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図14 竹ナノセルロース添加によるポリオレフィン樹脂の補強[10]


ポリオレフィン樹脂は自動車や家電製品,生活容器ほか既に幅広く利用されており,ナノセルロースを少量添加するだけで更に軽量化でき,強度が補強されることのインパクトは大きい.プラスチック強化材としては,ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)やカーボン繊維強化プラスチック(CFRP)などもあって,ナノセルロース強化プラスチックがどのような用途に適しているか,サンプル提供先と協力して検討しているとのこと.自動車用の窓ガラスや内装材の代替も候補となろう.ただし,現時点では黄色みが多少残っており,ガラスを代替して光学材料として使用するためには黄色の原因であるヘミセルロースを除去しないといけない.「今後は量産化に向けて調整条件を最適化し,成型加工先と共同で信頼性テスト・安全性も確認した上で,2017年の製品化を目標に開発を推進している」,と田中氏は意気込みを語った.高岸開発本部長からも,「自社だけで個別に努力しているより,開発スピードを上げるために顧客と一体になって新規事業を立上げたい」と期待を述べられた.


7.おわりに

天然資源である樹木や竹のセルロース繊維を紙として利用するだけでなく,ナノメートルサイズまで微細化してセルロースナノファイバーにすると,紙パルプとは違った新しい素材になる可能性の芽が見え始めてきた.中越パルプ工業は九州大学と連携して水中対向衝突という微細化法でナノセルロースを作成することで,親水性のセルロースに疎水性も付与できるという特徴を引き出した.特に竹素材のナノセルロースは疎水性が顕著に発現し,強化プラスチックへの応用他,様々な展開が考えられる.今後,実用化に向けた開発が楽しみである.


参考文献

本文中の図は,全て中越パルプ工業より提供されたものである.

[1] nano tech大賞2015,http://www.nanotechexpo.jp/main/award2015.html
[2] 中越パルプ工業株式会社 “ナノセルロース”(パンフレット),
http://www.chuetsu-pulp.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2015/01/20150206CeNF.pdf
[3] Akira Isogai, Tsuguyuki Saito and Hayaka Fukuzumi,”TEMPO-oxidized cellulose nanofibers”, Nanoscale, vol.3, pp.71-85 (2011)
[4] 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構,平成22年度~平成24年度成果報告書,グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発 化学品原料の転換・多様化を可能とする革新グリーン技術の開発「セルロースナノファイバー強化による自動車用高機能化グリーン部材の研究開発」(2013年2月),
http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/labm/wp-content/uploads/2014/01/fd99748c35cc0315e96a856e6d8f2de3.pdf
[5] “セルロースナノファイバーに関する国内外の研究開発,用途開発,事業化,特許出願の動向等に関する調査”,三菱化学テクノリサーチ (2013年3月),
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2013fy/E002988.pdf
[6] Tetsuo Kondo, Mitsuhiro Morita, Kazuhisa Hayakawa and Yoshiro Onda, “Wet pulverizing of polysaccharides”, US Patent No.7,357,339 (2005年出願)
[7] 橋場洋美,田中裕之,”ナノ微細化品の製造装置,ナノ微細化品の製造方法”,日本国特許第5712322号(2014年出願)
[8] Ryota Kose, Wakako Kasai and Tetsuo Kondo, “Switching Surface Properties of Substrates by Coating with a Cellulose Nanofiber Having a High Absorbability”, SEN’I GAKKAISHI, vol.67, No.7, pp.163-168 (2011)
[9] Kunio Tsuboi, Shingo Yokota and Tetsuo Kondo, “Difference between bamboo- and wood-derived cellulose nanofibers prepared by the aqueous counter collision method”, Nordic Pulp & Paper Research Journal, Vol.29, No.1, pp.69-76 (2014)
[10] 中越パルプ工業,プレスリリース,“ナノセルロースを高分散したポリオレフィン樹脂の開発に成功 ~プラスチックの軽量化と環境に貢献~”(2015年1月26日),
http://www.chuetsu-pulp.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2015/01/0df94ac87a0fcd73ef6e784ce078725d.pdf


(尾島 正啓)



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