各国研究 イラン ⑤ 160425

幾つかの映像を見てみよう。 イランが どういう国か? 見えてくる。 幾つかの報道もみる。 日本とイランのこれからが 自ずから 浮かび上がってくる。導入編なので これを足掛かりに しっかり学んでみよう。

 

経済制裁解除、イラン市場のチャンスは本物か

日本も経済制裁解除、投資協定に署名 A日経ビジネス① 野村 修一

2016年2月23日(火)

イランのテヘラン市。中央はイラン最高層のミラッド・タワー

ポテンシャルの高い新興国の中で今、イランに注目が集まっている。イランの日本の制裁解除、投資協定の署名に続き、イラン進出を計画する日本企業が注目すべきは、2月26日に実施される専門家会議(Majles-e Khobregan、英語表記Assembly of Experts)と国会(Majles 、英語表記Parliament)の選挙だ。専門家会議は、最高指導者(Vali-e faghih-e iran、英語表記Supreme Leader)の選出・罷免の権限を有することで極めて重要である。

イランでは、大統領は行政府の長に過ぎず、国家元首に相当するのが「最高指導者」となる。最高指導者には任期の定めはないものの、現最高指導者であるセイエド・アリー・ハメネイ師(1989年6月就任)は39年生まれで今年77歳である。そして、同時に行われる国会選挙は、現政権ハッサン・ローハニ大統領が今後も改革路線を継続できるかどうかの鍵を握る。

(★色々な人たちの話を聴いてみよう。)

7800万人をターゲットに動き出した日本企業

現在の保守的な国会議員構成が変わらなければ、政局運営に支障をきたす恐れがある。イランの核開発関連の制裁解除に向けた包括的共同行動計画の合意内容についてイランが履行したことを、国際原子力機関(IAEA)が確認したことを受けて、日本政府もイランに対する経済制裁を解除、今夏の発効を目指したイランとの投資協定が署名された。こうして、日本企業も7800万人のイラン消費市場参入に向けて動き出す。

この様子に、2011年に民政移管後、その翌年から投資ブームが沸き立ったアジアの「ラストフロンティア」として注目されたミャンマーを思い起こされる方も多いだろう。アジア最後のフロンティア市場としてミャンマーが注目された2011年に遡って比較すると、1人当たりGDP(国内総生産)でイランはミャンマーの9倍、そして人口は1.5倍、経済規模でみると13.5倍のインパクトがある。

2012年、欧州のイラン原油輸入停止や、米国によるイラン自動車関連企業との取引制裁などといった経済制裁強化を経て、昨年のイランの1人当たりGDPは5400ドルまで減少した。制裁解除を受け、イラン政府は、年率8%成長とする第6次5カ年計画(2016年3月~21年3月)を策定中である。イランの1人当たりGDPが制裁強化前の2011年の1人当たりGDP7200ドルの水準に戻るまでに、さほど多くの時間を必要とはしないだろう。

イランと日本は友好的な歴史を維持してきたにもかかわらず、ほとんどの日本企業にとっては、1979年のイラン革命以来37年間、没交渉という状況だ。日本企業にあるイランに対する先入観と実態のギャップは極めて大きく、残念ながらそのことがイラン市場参入への動きを鈍くしている。現地市場をまず理解していただきたいと願う。

★この映像で イランのなぜ? そうなのかが 少し判る。 じっくり見ると随分 示唆に富んでいる。   ★イスラム宗教の重要性 他国からイラン ホメイニ神学校に学びに来る学生たちの話に、耳を傾けてみよう。★ハタミ大統領の役割は大きい。 注目しよう。 ★殉教者とは ? ★ダグニスタンは 独立するのか? ★ヒズボラの役割 ★ホメネイ師は アラーのもとにいらっしゃる。★サラーム新聞の発行停止

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インフラビジネスで日本の免震技術に優位性

イランは日本企業にとって強みを生かせる市場である。まずは、インフラビジネス。長い経済制裁の間に老朽化が進み、更新需要のあるインフラは大きなビジネス機会だ。

国際協力銀行(JBIC)と日本貿易保険(NEXI)は、イラン政府保証をもとに合計100億ドル(1.2兆円)の融資・保険供与枠を設定する方向となった。金融が脆弱なイランにおいて競争力ある金融はインフラビジネス受注を決める重要な要素である。日本企業にとって力強い後押しになる。

実はイランは、1980年以降の大型地震発生件数が世界で3番目に多い地震大国であり、地震による被害者数も多い。日本企業には、トルコなど地震国において高い評価を得ている免震技術がある。イランのインフラビジネスにおいても日本の高度技術を求められる可能性は高い。

大型地震による被害(1980年~2015年)
出所:EM-DAT Database

 

 

A日経ビジネス ②

 

経済制裁解除、イラン市場のチャンスは本物か

日本も経済制裁解除、投資協定に署名 野村 修一 

テヘランだけではなく、エスファハーンなど主要都市にも地下鉄を建設中。右は車内

また、イランには片道5車線の大規模な高速自動車道があり、テヘラン地下鉄は既に5路線で運行している。地下鉄はイスファハンなど主要都市でも建設中である。2011年に実施されたイランの国勢調査によると、上水道から飲料水を得ている家庭は95.3%、電化率も99.5%に達している。

また、インターネット利用者は中東・北アフリカで最多の3490万人、普及率は44%となっている(Economist Intelligence Unit 2015年推計値)。「次の選挙までに道路なり空港なりハコモノを見える形で示したい」という国で要求されるインフラ水準ではもはやない。イランには、質の高いインフラ、ライフサイクルでの価値が評価される土壌がある。

★中東民主化の流れが 判りやすく解説されている。

イランの若い消費者は品質重視

次に、消費者市場をみてみよう。

2011年の国勢調査によると、7800万人のうち、39歳以下が72%を占め、年齢の中央値は28.3歳である。2015年の年齢中央値は29.5歳と1つ年齢を重ねたが(国連「World Population Prospects 2015 Revision」)、日本の消費財企業の主戦場となっているシンガポールの40.0歳、タイの38.0歳、中国の37.0歳と比べると格段に若い消費者が主体になっている市場といえる。

その若い消費者には教育が行き届いている。イランの大学進学率は66.0%と、62.4%の日本をも凌いでいる(UNESCO 2014年統計値、大学進学率=短大・学部・大学院在籍数合計を高等教育適齢人口で除した値)。アジアの大学進学率は、インドネシア31.3%、ベトナム30.5%、中国30.2%、インド23.9%、ミャンマー13.5%といったところだ。

さらに、大学卒業者の理系比率36.9%は世界トップである(UNESCO 2014年統計値、理系=工学・建築関連学部)。イランは国際数学オリンピックの常連であるし、女性で数学界最高の栄誉であるフィールズ賞を初めて受賞したのもイランである(なお、識字率は男性98.8%、女性98.5%。 UNESCO 2008年-12年統計値)。

資源の豊かな国に製造業が根付くことは難しいとされているが、イランではGDPに占める製造業割合は12.6%と存在感をもっている(出所:United Nations、鉱業割合は29.3%)。経済制裁が産業構成を多様化させた側面もあるが、教育の成果が大きいと考えている。モノづくりを理解するイラン消費者が選ぶのは、品質に信頼性をおく日本製品とドイツ製品である。

A日経ビジネス③

日本も経済制裁解除、投資協定に署名 野村 修一

日本料理店の写真(左)とショッピングモールの外観(右)

現時点のイラン消費市場は、タイより小さい1766億ドル(Euromonitor 2015年推計)であるが、今後、経済制裁下で抑圧されてきた繰延需要が顕在化してくる。

制裁解除により原油輸出が拡大、1070億ドル(世界銀行推計)とされる在外資産の凍結が解除されイランに還流されることで経済は成長し、消費者の購買力を向上させ、失業率(2015年9月22日現在10.9%、15歳~29歳若年層失業率23.4%、出所:「Statistical Centre of Iran」)を押し下げる。 結果、消費市場が拡大する。

最後の「自動車ミリオン・フロンティア市場」

グラフは、新車販売台数と自動車生産台数の推移である。経済制裁強化前の2011年に165万台を販売している。世界で100万台以上を販売している国は2015年時点で15カ国しかない。イランは、最後の「自動車ミリオン・フロンティア市場」といえる。

イランは、エンジンなどの基幹部品から完成車組立まで国内自動車産業の厚みがある中東最大の自動車生産国でもある。イラン政府は自動車産業政策10カ年計画を発表しているが、その内容は2025年度に312万台の生産を目指すというものだ(うち乗用車が300万台、商用車12万台)。乗用車は、国内で200万台を販売し、中東湾岸諸国・中央アジア市場を中心に100万台を輸出する計画である。

主要施策は、外国自動車・部品メーカー誘致である。外資誘致インセンティブの付与とともに、イラン南東部にChabahar 港自動車製造特区を設置して自動車クラスターの形成を企図している。

新車販売※1 台数
出所:マークラインズ
※1:中型車・大型車はデータに含まれない
自動車生産※2 台数
出所:世界自動車統計年刊2015
※2:年度はイラン暦(例:2014年度は2014年3月21日~2015年3月20日)

仏プジョーシトロエングループ(PSA)と独ダイムラーの商用車部門がイランでの生産投資、三菱ふそうトラック・バスが、小型トラックを輸出販売すると発表したが、自動車・同部品メーカーの参入報道はさらに続くだろう。

都市に居住する人口比率は72.9%(Economist Intelligence Unit 2014年)であり、東南アジアの国と比較すると極めて高い(インドネシア53.0%、タイ49.2%、ベトナム33.0%)。消費支出に占める首都テヘランのシェアは22%で、タイにおけるバンコクの消費集積23%とほぼ同じとされる(Euromonitor 2015年推計値)。

首都市場にフォーカスして主要都市を押さえることで、効率よく自社製品を販売できそうであるが、流通構造が違うために実際は難しい。

タイはスーパーマーケット、コンビニエンスストアなどの近代的小売業態(モダントレード)比率が45.3%まで高まっているが(2015年実績値、Euromonitor)。イランは未だ個人経営の食料雑貨店、バザールなどの伝統的小売業態(トラディショナルトレード)が支配的な市場である。イランの大手消費財企業3社の社長に質問を向けたところ、「流通分野への外資参入がほとんどなかったこともあり、バザールなど伝統的小売業態が支配的な流通構造になっており、日用品(FMCG)では9割を占める。

A日経ビジネス ④

イランの自動車部品メーカーが、日本の「5S」をペルシア語で表記

イランにおいて近代的小売業態の比率は1割」と、同じ見解であった(Euromonitorの2015年推計値では伝統的小売業態93.4%、近代的小売業態6.6%)。近代的小売業態の中では、仏CarrefourとUAE流通企業Majid Al-Futaimの外資合弁ハイパーマーケットであるHyperstarが企業別では最大のシェアを有するが1.1%に過ぎない(Euromonitor 2015年)。

イランには、50万人以上の都市が14、うち100万人以上の都市が8あるが、日本の4.4倍ある広大な国土に散らばって存在している。北にカスピ海と南にペルシャ湾に挟まれながらも2つの高い山脈が間を走る。最高峰は5671メートルのダマバンド山である。砂漠もある。Ahvazのように気温50度を超える場所もあれば、零下28度になるShahr-e-Kordのようなところもある(2014年3月「Statistical Centre of Iran」)。

民族も多様だ。公用語であるペルシャ語を母語とする人口比率は53%に過ぎず(2016年「CIA Factbook」)、チュルク系アゼルバイジャン語、クルド語等、主要言語だけでも12言語あるとされる。そうした市場で販売チャネルをゼロから構築するのは莫大な投資と時間を要する。

イラン主要都市
出所:EIU, Country Report, March2015/Statistical Centre of Iran
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日用消費財は、イラン主要都市に販路をもつ現地企業との提携という選択肢を検討する必要が生じるだろう。

高いマネーロンダリング・リスク

イラン報道に際しては殊更リスクが強調されるが、それらはイランに限ったことではない。リスクを理解したうえで、リスク低減策を講じることが経営である。イランに固有の以下の点は、認識しておく必要がある。

イランではまだ、すべての制裁が解除されたわけではない。米国の財務省外国資産管理室(OFAC)SDNリストやEU資産凍結対象リストにおいて制裁対象として残る個人や企業がある。例えばSDNリストは、革命防衛隊を制裁対象とし31の関連企業や組織をリストアップしている(2月7日現在)。

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A日経ビジネス ⑤

富裕層地区の街並み

親会社・子会社・孫会社と垂直的な構造をとらず、兄弟会社が多く並列することや株式の持ち合いもあり、全容把握が難しい。さらに、半官半民的な民間企業や国営企業や政府の間接的な関与のある企業も存在する。現地企業との交渉前に当該企業と株主・役員をSDNリスト等に該当しないか否かを確認するバックグラウンド調査を実施することが必須であることは新興国に共通である。

イランは、トランスペアレンシー・インターナショナルが公表する2015年版汚職腐敗認識指数(Corruption Perception Index)によれば168カ国中130位といった低位にあり、スイス・バーゼルガバナンス機関が公表する2015年版反資金洗浄指数(Basel AML Index)のスコアは8.59と、調査対象となった152カ国の中において、最もマネーロンダリング・リスクが高い国となっている(経済制裁による送金規制が課される国は高くなる)。

だが現地企業と提携契約を締結する前にデューデリジェンスをしっかりすることもイランに限った話ではない。たとえば、二重帳簿は、税制が精緻化されつつある今日では減ってはいるものの、非上場企業ではまだ多くみられる。現金帳簿上の社会保険支出額と従業員数・給与総額の辻褄が合わないケースが見られる。イランでは社会保険の負担が事業主(負担率23%)、従業員(負担率7%)ともに大きいことから、労使双方に、給与の金額を抑え、簿外で現金のやり取りをするインセンティブが働くからだ。

またイランでは、イランに合意違反があれば制裁が復活する、いわゆる「制裁復活=スナップ・バック(Snap Back)リスク」が存在する。現地企業との提携契約にあたっては、制裁復活(「スナップ・バック」)に備えた契約条件を交渉し合意を得ておくことが必要である。イランのみならず、新興国に進出する時点で出口戦略を策定しておくことはリスクヘッジの観点で重要である。

イラン企業との提携交渉にあたって注意すべき点

相手企業の考えを理解することなしに交渉事は進まない。まずは、マイナス金利と20%金利の経営環境の違いを知ることから始まる。現時点(2月5日)イラン中央銀行のMoney & Credit Councilは1年定期預金の年利を20%に設定している。イラン企業に提案するビジネスプランを策定する際には参照して期待利益率を設定する必要がある。「3年で単年度黒字化、5年で投資回収」という提案でイラン企業と接点をもつことは難しいだろう。

合弁事業のパートナー候補であるイラン企業に中長期事業計画を求めても出てこないことがある。長期事業計画を立てても経営環境が目まぐるしく変わる中で、予実管理も意味をなさなかったためだ。

経済制裁が解けて世界は変わった。イラン企業の視点を織り込んだビジネスプランを携えて、ぜひ一社でも多くの企業にイラン市場へ乗り込んでいただきたい。

幾つかの報道を見てみよう。 B東洋経済①

イラン制裁解除で中東情勢はどう変わるのか

新たな対立が激しくなる恐れ

美根 慶樹 :平和外交研究所代表

1月23日、中国の習近平国家主席は、訪問先のイランでロウハニ大統領と会談した。テヘランで撮影。提供写真(2016年 ロイター/President.ir)

イランの核開発に関する合意が履行され、イランに対する制裁が解除されることになった。1月16日、イランと米欧など6カ国によって発表された。この制裁解除によって中東情勢はどう変わり、日本はどのような影響を受けるのかについて解説していきたい。

イランが信頼を勝ち得たわけではない

この連載の過去記事はこちら

まず、今回の制裁解除をもってイランが米欧の信用を勝ち得たと判断するのは早すぎる。イランに対する不信感は根深く、昨年7月、長年の交渉の末イランの核開発についてようやく合意が達成された後も信用できないとする声が上がった。

12月に国際原子力機関(IAEA)がイランの合意履行状況に問題はないとする報告をした後でも懐疑論はやまなかった。米国が重視する国際機関が大丈夫だと言っても信用しない人がいるのだ。今も不信の声は消えていない。米国では大統領選挙の候補の中にも露骨にイラン批判を続ける者がいる。

イランと敵対関係にあるイスラエルは、イランは核兵器を保有する野心を放棄していないとして制裁解除に反対し、国際社会やIAEAに、イランに対する監視を強化するよう求めている。また、イランは世界中にテロを拡散しているとも言っている。

核開発の関係だけでなく、中東ではほかの分野でも信頼感がはなはだしく欠如している。米国政府は、テロ支援を理由にイランに課している制裁を今後も継続するし、弾道ミサイルの開発関連では、今回の発表の翌日に追加制裁を課している。

イランが要警戒の国として扱われていることは変わりないのである。

 

B東洋経済 ②

中東では第一次大戦以来、紛争が絶えたことはなかった。主なものだけでも、イスラエルとアラブ諸国の4回にわたる戦争、その後のパレスチナをめぐる紛争、イラク・イラン戦争、湾岸戦争、イラクと米英など多国籍軍との戦争、アフガニスタンとソ連との戦争、現在も進行中のアフガニスタン戦争、トルコでの紛争などあきれるほど多くの紛争が発生しており、紛争に巻き込まれたことがない国はないと言ってよいくらいだ。

中東が論じられる場合、イスラムの宗派間の対立が原因であるとよく言われる。確かにそのとおりだろうが、中東において最も問題なのは信頼感が欠如していることだと思う。

イラン問題はイスラエル問題でもある

1979年のイラン革命後、イランと米国は激しく対立してきた。米国のイランに対する不信感はあらためて説明するまでもないが、イランも米国に対して不信感を持っていることはその道ではよく知られている。米国自身は認めないだろうが、イランでCIAなどが政治に干渉したことは世界の常識だ。テヘランで捕らえられている米国の大使館員を救出するために、米国がイラン政府に無断で武装救出要員を送り込んで失敗に終わったこともあった。米国の行動にイランの主権を侵害するおそれがあったことは否定できなかった。

イランが核問題について非協力的な態度を取ったのは、イスラエルだけが中東で核兵器を保有し、しかもそのことをとがめられないのは不当だという理由からだったが、根底にはイスラエルの後ろ盾である西側諸国に対する強い不信感があった。

しかし、イランは核兵器不拡散条約(NPT)の締約国であり、核兵器の開発は禁止されており、IAEAの査察を受ける。イラン政府は査察に協力しなければならないが、何回も査察を妨害した。米欧などと協議の結果査察が再開されてもイランの協力は長続きせず、査察員を国外へ追放するということを何回も繰り返した。そのためイランに対する不信感はますます高まった。

しかるに、核合意の履行と制裁の解除によって信頼関係が回復される可能性が出てきた。米欧など6カ国の政府は、2013年8月に就任したローハニ大統領が国際社会との関係を重視し、信頼に値する政権であることを確認し、かつ、昨年の合意以降のイランによる履行状況を子細に観察した結果として、イランを、確定的ではないが、信用してよいと判断した。IAEAもその判断を後押しした。

イランに関するこのような観察と判断を踏まえて、イランに対する制裁が解除されたのは極めて重要なことであった。

イランの核開発問題に関する交渉は2002年から始まっており、さらにイランがそのような計画を始める原因は1979年のイラン革命から発生していたので、37年来の懸案に終止符が打たれることになる。今後、さらに、ミサイルやテロ支援の関係でも協力が進めば、イランと西側との信頼関係は条件付きでなくなり、強固になっていくだろう。

B東洋経済③

もっとも、米欧などにとってよいことばかりではない。核開発問題が解決し、シリアに強い影響力を持つイランがIS問題の解決においても力強い援軍となることが期待される中で、イランとサウジアラビアの対立が始まった。きっかけとなったのは、サウジで死刑判決を受けていたシーア派の指導者ニムル師の刑執行であり、それから両国は激しく対立し断交にまでエスカレートした。

サウジはほかの湾岸諸国とともにISに対する空爆に最初から参加していた。米国にとっては、この貴重な同盟国にイランという新しい援軍が加わろうとしたのに、サウジとイランの間で仲たがいが始まったので、IS対策におけるイランの貢献は期待どおりにいかない恐れが出てきた。

そのような曲折はあるが、イランの核問題の解決をきっかけにイランに対する信頼感が回復していけば、第一次大戦以来の中東の最大懸案であったイスラエルとパレスチナをめぐる中東和平問題にも好影響が及ぶだろう。

前述したように、イスラエルは現在、イランを信用していない。イスラエルがイランを信用できるようになるにはさらに長い道のりが必要だろうが、決して不可能なことでない。

イスラム革命以前、イランはイスラエルと外交関係に準じた密接な関係があり、貿易なども盛んで、両国は共同でミサイルを開発しようとしたこともあった。イランとイスラエルは根からの敵同士ではないのだ。

また、イランだけでなく、イスラエルの側にも変化する可能性はある。イスラエルの指導者はネタニヤフ首相のような強硬派ばかりでない。

将来のことだが、核問題の解決がイスラエルとイランの和解につながっていけば、それこそ中東の秩序に構造的変化が生じるだろう。

日本はどう動くべきか

本稿では政治面での変化を見てきたが、核問題の解決と制裁の解除は経済面でも巨大な効果をもたらす。石油の大消費国である日本にとっても今回の発表の意義は大きい。日本はかつてイラン石油の主要輸入国であったが、制裁をかけている間にイランとの経済関係はかなり後退した。

今般の核問題の解決を機に、日本政府は22日、イランに対する制裁の解除を決定した。今後日本としてはイランとの関係を再構築していくことになる。

おりしも中国の習近平中国主席は1月19日からのサウジ、エジプト、イランを歴訪し、巨額の借款供与や原発輸出を発表して世界の注目を浴びている。中国は中東への進出を強めようとしており、パレスチナの問題に関しては包括的な和平案を提示済みだ。

このような中国の積極姿勢は米国にとって歓迎すべきものか。また、イランと西側との信頼関係回復に役立つか。今後の展開次第だろうが、日本としてはそのようなことも含め中東世界の秩序が大きく変化する可能性に注意を払っていく必要がある。

★最近の動き-1

C日経新聞 ①

イラン制裁解除が脅かすサウジの覇権

(1/2ページ) 2016/1/27 14:50  
 今週、イランのハッサン・ロウハニ大統領の歴訪を迎えたイタリアとフランスの政財界幹部は惜しみない歓迎ぶりだった。中東は相変わらず宗派間の混迷から抜け出せず、シリアを舞台とするイランとサウジアラビアの代理戦争が国際的な安全保障上の脅威へとエスカレートしている。しかし、イランが国際市場に復帰したことで、めったにない新興市場の「金の卵」への期待が浮上すると同時に、イランの制裁解除が、域内のライバルとの経済的競争でサウジを新たな局面に突き動かすのではないかという兆しも照らし出している。

■イランに近づくイタリアとフランス

ロウハニ大統領と同行団は、イタリアで石油のパイプラインから鉄道まで約170億ドルにのぼるあらゆる事業協力で合意している。また、フランスではエアバス社から新たな旅客機114機を購入する契約を結ぶ。イランに対する経済制裁が同国の経済をまひさせるまで、イタリアとフランスの欧州2カ国はイランと最も近い国々だった。その2国との契約は、(全てではないが)ほとんどの制裁が解除された今、今後起こり得ることの前ぶれだ。一部の地元エコノミストらは、まだ対処できていないイランの投資すべき金額は、今後5年間で毎年約1500億ドルに上ると推計する。また、より慎重な国際通貨基金(IMF)も、イランの輸入額が2016年の750億ドルから20年には1150億ドルに増えると予想している。このことに対して、サウジはどのように対応してきたのだろうか。

サウジアラムコの一部の株式を公開する構想が出てきた=ロイター

サウジアラムコの一部の株式を公開する構想が出てきた=ロイター

サウジは、経済と福祉制度の抜本的な行政改革に着手している。似たような改革は過去に検討されたが、リスクが高すぎるとして手をつけなかった。しかし、原油安にもかかわらず原油があふれるなか、一部の燃料補助金が削減されている。そして、ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子は、国営石油会社で同国の最も重要な資産である、サウジアラムコの一部の株式を公開する構想を打ち出した。

この件で世界の市場関係者は素早く資産査定を計算し始めたが、実はこれがイランから話題をそらすための真の意図だったのかもしれない。サウジ政府は、欧米諸国がサウジを見る場合、その巨額な利益に目を向けていることを熟知している。同国経済は比較的、外国人投資家には閉ざされたままだが、過小評価すべきではない。

最近の動き②

C日経新聞②

イラン制裁解除が脅かすサウジの覇権

(2/2ページ) 2016/1/27 14:50

 恩顧主義の力強さに欠ける不労所得国家であっても、同国は過去に優位性のオアシスを築いてきた。1970年代にはサウジアラムコの権利を米国の所有者から買い戻し、同時期に石油化学大手のサウジ基礎産業公社(サビック)を設立している。この2社がその例だ。それも昔のことだ。原油価格の急落やイランの挑戦、また特に過激派組織「イスラム国」(IS)を信奉する反抗的な若年層に生計の手段を与える必要性などは、新たなサウジの指導者がなんらかの対策を見つけ出す必要があることを示唆している。

■ペルシャ湾岸の大国が経済のライバル関係に

サウジが機会を避ければ、近隣諸国が手に入れるだろう。アラブ首長国連邦(UAE)の港は、イランの貨物積み替えの拠点となっていき、天然ガスの豊富なカタールは、イランが莫大な埋蔵ガスを活用する手助けができる。国際的な銀行はおそらく与信リスクの懸念からイランとの取引を控えるだろうが、ドバイからベイルートに至るまで地元を知りうる銀行などには貴重な機会をもたらす。

さらに言えば、サウジは外交や軍事的領域よりもむしろ経済の領域でイランにうまく対抗できるだろう。

サウジ政府が最近、イラン政府との外交関係を断絶した際にサウジに同調したのは、従属国のバーレーンとソマリアやジブチなどを含むアフリカの角と呼ばれる一部の国々だけだった。

ペルシャ湾岸の大国たちが経済競争のライバル関係に移行するという発想は、まだ芽生えたにすぎない。だが、世界の地政学の算式にイランが含まれるようになり、国際的な注目がサウジのワッハーブ派と過激派組織との関係性に集まる中、サウジ政府の支配者は同国の強みを改めて評価し直したほうがいいのかもしれない。

By David Gardner(2016年1月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

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 最近の動き③

 

最近の動き ④

 

 

★おしんの人気★ 私たちの良さを 現在に生きる日本人として 謙虚に 素直に うけつごう。

大和言葉も