Syria ⑦ どうしてこうなった? 160422

S・難民・ロシア機撃墜…背景のシリア問題を読む

2015/11/25 18:00
 トルコ軍が24日、シリア国境付近でロシア軍機を撃墜した。背景には両国が異なる思惑でシリアに関与している事情があった。シリア内戦は、「イスラム国」(IS)の台頭を許し、多くの難民を生むなど深刻な国際問題を招いている。

■シリア、「アラブの春」で内戦状態に

シリアは1946年のフランス委任統治からの独立に伴い当時のソ連と関係を強化。イスラエルと対立する中、対ソ関係を軍事的、政治的に拡大した。

ロシア・シリア関係とは(2013年9月4日)

ハフェズ・アル・アサドの率いる(シーア派の)アラウィ派の将校団が、1970年までに権力闘争を勝ち抜きシリアを支配するようになった。アサドは秘密警察のネットワークを張り巡らして国民を監視し、反乱には徹底的な弾圧で応じてきた。

そのアサドが2000年に死亡すると息子のバッシャールが大統領となった。

混迷深まるシリア情勢 宗派の対立が背景に(2012年10月14日)

2011年、中東・北アフリカ諸国で起こった「アラブの春」と呼ばれる反政府運動はシリアにも広がり、アサド政権の退陣を求める市民と当局の間の衝突に発展した。

それ以来、シリアは政府と反政府勢力、イスラム過激派などが入り乱れた内戦が続いている。

シリア内戦 「イスラム国」台頭許す(11月17日)

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■国際社会、足並みそろわず

2011年3月に起きた反政府デモが発端となったシリア内戦。国連を中心とする国際社会が事態を放置し続けたため被害が広がった。

国連安全保障理事会ではアサド政権の退陣を求める米欧と、シリアの友好国であるロシアが激しく対立。国連による調停は2012年8月に破綻した。

シリア内戦予断許さず 決議の拘束力、化学兵器のみ(2013年9月28日)

英国のシリア人権監視団は10月、内戦による死者が25万人を超えたと発表した。シリアから周辺国に逃れた難民は400万人を超え、欧州に押し寄せるなど域外にも影響は広がる。

シリア内戦 「イスラム国」台頭許す(11月17日)

■「イスラム国」の台頭許す

「イスラム国」(IS)は中東のイラクやシリアの一部を実効支配するイスラム教スンニ派の過激派武装組織。

2014年6月にイラク第2の都市であるモスルを制圧し、イスラム法に基づくとする「国家」の樹立を一方的に宣言した。国際社会は国家として認めていない。

「イスラム国」 ネット駆使し若者勧誘(11月18日)

IS台頭の背景にはシリア内戦に伴う権力の空白と、その背後の主要国の対立がある。

シリアの内戦終結に全力を(5月28日)

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シリア政府軍と反政府勢力の戦闘が激化するなかで、政府軍は首都ダマスカス近辺に戦力を集中させた。一部地域が無政府状態となり、結果として隣国イラクで勢力を増していた過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭を許した。

ISは北部のラッカなど要衝を支配、残虐行為を用いて市民を迫害した。

シリア内戦 「イスラム国」台頭許す(11月17日)

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■米ロ・欧州、さまざまな形で関与

シリア内戦には米ロや欧州諸国がさまざまな形でかかわっている。

米国や欧州はアサド政権に退陣を要求。ISに空爆を実施しつつ、クルド人勢力など反政府・反IS側を支援する。

一方、ロシアはアサド政権を支持。ISだけでなく反政府勢力も空爆し、事態を複雑にしている。

シリア内戦 「イスラム国」台頭許す(11月17日)

■トルコ、ロシア軍機を撃墜

トルコ政府は24日午前(日本時間同日午後)、南部のシリア国境付近で、領空を侵犯したロシア軍機を撃墜したと明らかにした。

プーチン大統領は同日、「背後から刺されたようなものだ」と述べ、トルコを強く非難した。

ともにIS打倒を掲げてきたトルコとロシアは、もともとシリアのアサド大統領の去就をめぐって対立してきた。

ロシアは9月からアサド政権を支援するため、IS掃討の名目でシリア領内の空爆を開始した。

実際にはアサド政権と敵対する反政府勢力も標的にしているとされ、トルコのエルドアン政権はトルコ系トルクメン人も空爆されているとして不満を募らせていた。

トルコは反アサド政権で米欧などと歩調を合わせるが、IS掃討よりもアサド政権を支援するイランや、エルドアン政権と対立するクルド人の勢力をそぐことに主眼を置く。今後の交渉をにらみ、存在感を示すためにこのタイミングでロシア軍機の撃墜という強硬策に踏み切ったとみられる。